読者の皆さんなら,次のような状況でどのような選択をするだろうか。ある企業には1200台のデスクトップPCがあり,ほとんどが購入から5~6年が経過している。しかも企業合併の影響で,デスクトップPCのOSはWindows 2000とXPが半分ずつ混在している。この企業が行うべきなのは,ハードウエアごとWindows Vistaに移行することか,それとも当面はWindows 2000をXPに移行して,Vistaが安定するのを待つことだろうか?

 実は,このシナリオは仮定の話ではない。筆者が勤務する出版社,米Penton Mediaで現実に起こっているシナリオである。Penton MediaのIT部門は,1200台のデスクトップPC(一部はノートPC),500台のMacintosh,約160台のサーバーを管理している。デスクトップPCは,半分がWindows 2000で,残りの半分がWindows XP SP2であり,どちらもほとんどがハードウエアの更新時期が過ぎている。

 Penton MediaのCTOであるCindi Reding氏は,2007年2月に企業合併が行われてから驚異的なスピードで物事を進め,IT部門が管理するすべてのWindows PCを,Windows Vistaに移行することを決断した。そして現在は,その準備を進めている。筆者は,Windows Vistaの採用に消極的な読者の声を聞いている。そこで筆者は,Windows Vistaの導入を決断した経緯と理由を,当事者から直接聞けるチャンスだと考え,Penton Mediaにおける事例を紹介することにした。

OSの混在とハードウエアの老朽化で移行を決断

 Reding氏にとっては,Windows 2000とXPが混在していることと,古いハードウエアを使っていることが,移行を決断した決定的な要因だった。彼女は「Windows XPに移行するのは,Windows Vistaに移行するのに比べて時間の無駄だと思った。Windows Vistaは1年もすればもっと安定すると考えられているらしいけど,今すぐすべてWindows Vistaに移行してしまえば,その時期にもう一度同じ作業を繰り返す必要がなくなる」と語る。

 「もっと安定すると考えられているらしい」とはどういう意味か確認すると,「私はもう何カ月もWindows Vistaを使っているが,これまでに使ったMicrosoftプラットフォームの中では一番安定しているし,直観的に使いやすいと感じている。12月に使い始めてからこれまでの間にシャットダウンしたのは2回だけで,それ以外はずっとスリープ・モードで使っている。ネットワークには,有線と無線を切り替えても何の問題もなく接続できる。それから,私は様々な場所に出張してあちこちのネットワークに接続するから,システムを始終リブートする必要がないことは,非常にありがたい。何か印刷したいときに,いつも使っているプリンタが接続されていなくても,USBポートにケーブルをさせばWindows Vistaがすぐにプリンタをインストールしてくれて,書類を印刷できる。プラグ&プレイは完璧に動作している」と答えた。

互換性問題は仮想化技術で回避

 もちろんReding氏は,Windows Vistaの課題も十分認識している。「もちろん問題点はある。まず,すべてのアプリケーションやドライバが完全には対応していない。ただし,当社は標準的な環境でパソコンを使っているし,検証部門を設けてアプリケーションの動作確認をしている。Windows Vistaへの移行を検討する場合,どのように対応するのがベストなのかをアプリケーション・ベンダーに確認する必要がある。アプリケーション・ベンダーがWindows Vista対応バージョンをリリースするのがいつかを確認して,もしその準備が間に合わない場合は,ターミナル・サービスや『SoftGrid』を使って対応する。実際に,当社の請求システムでも一部で互換性問題が発生したが,これらのテクノロジで克服できるだろう。互換性の問題を回避する手段は,複数あるのが現実だ」(Reding氏)

 Windows Vistaを導入する場合のもう1つの重要な要因は,高性能な最新のハードウエアの必要性だ。Reding氏は,米DellのデスクトップPCとノートPCを,社内標準マシンに決定したという。「DellのPCには,米Intelのデュアルコア・プロセッサが搭載されている。われわれは,vProチップを利用できるかどうかをDellとIntelに問い合わせた。vProがあれば,サーバーを管理する場合と同じように,PCをリモートから管理できるからだ。今回購入したPCはハイエンド・タイプで,エンドユーザーが自分自身の日常業務を管理しやすくなるような機能をいくつか追加してある。これまでのところ,Dellのドライバにいくつか問題が見つかったぐらいで,ほとんどトラブルは発生していない。Dellは私たちに非常に協力的で,トラブルを可及的速やかに解決してくれている」(Reding氏)

 Reding氏によれば,ハードウエアの入れ替えコストは,「定期的に行っているハードウエア更新の費用で十分足りた」そうだ。「しばらくハードウエアの更新をさぼっていたから,予算には余裕があった。Microsoftは4年を1つの区切りとして新製品を出してくる傾向があるから,当社のハードウエアの更新も,4年に1回のペースにしようと考えている」(Reding氏)。

Systems Management ServerでOSを展開

 Reding氏のチームは,クライアント管理ソフトの「Systems Management Server」を使って,Windows Vistaを展開しようとしている。しかし,Penton Mediaの環境には課題が山積みだ。Penton Mediaは世界中に支社があり,多くの従業員が在宅勤務している。Reding氏は,こういった環境における移行の大変さを認識している。

 「一番難しいのはロジスティクスだ。5月の終わりか6月の初めに,Windows Vistaの展開を始める予定だが,まだ計画を練っている段階だ。機器を注文し,決められた時期に決められた場所にそれが配達されたこと,そして全従業員が自分の役割を認識したことを確認するまでには,かなりの時間が必要になる。現在の予定では,支社を巡回するチームを複数立ち上げて,どのチームがどの支社をいつ訪問するか,在宅従業員の環境確認をいつ行うかを明記したスケジュールを作成する考えだ。さらにチェックリストを作成して,作業忘れがないことを確認することにしている」(Reding氏)

 次に,移行作業が成功したかどうかはどのように判断するのかを質問した。「今は,サービス・デスクへの問い合わせの減少数を測定基準にしようと考えている。Windows 2000とOffice 2000を展開した際は,環境が安定した後のサービス・デスクへの問い合わせは約30%減少した。今回は少なくとも前回同様,あるいはそれ以上の減少を見込んでいる。今回は大きな目標の1つとして,セルフ・サービスを掲げている。従業員の能力を高めることによって,何らかの問題が発生したときに誰かに問い合わせるのではなく,従業員が自分で解決したり,システム的な支援を得て解決できたりするようになれば素晴らしいし,高い生産性を維持することにも役立つ。他社同様,当社も常に生産性を維持する方法を模索しており,Windows Vistaを採用することによって,これまでよりも大幅にその目標に近付けると思っている」(Reding氏)

 次に,Windows Vistaへの移行を検討する組織に何かアドバイスはないかと質問してみた。「現在Windows XPだけが存在する完全に管理された環境を使っている場合は,私なら,しばらく様子を見て,今後の成り行きにまかせると思う。しかしWindows 2000を使っている場合は,いったんWindows XPに移行するような手間をかけずに,直接Windows Vistaに移行することを勧める。ハードウエアを更新できる状況にあるのなら,Windows Vistaは良い選択だ。一番気になるのはユーザーの教育だ。ユーザーの業務を十分に理解している,高い能力を持つチームを編成する必要がある」

 筆者はジャーナリストとして,そしてエンドユーザーの1人として,Penton MediaのWindows Vistaへのアップグレードを今後もフォローする予定だ。読者にはその過程をつぶさに報告し,立ちはだかる障壁や落とし穴についてもレポートする考えだ。