「お伝えしたはずですが・・・」「そんなこと言ってない!」などと,相手から言われたことはありませんか?

 私たちは相手の話をきちんと聴いているようで,実際には正しく聴けていないことがあります。これが積み重なると,仕事の手戻りが何回も発生してしまい,納期に間に合わない,信頼を損ねるといったことにつながります。

 前回説明した3つの「きく」モードを,もう一度確認しておきましょう(図1)

図1●それぞれの“きく”モード
図1●それぞれの“きく”モード

 この図の○の例のように「聴く」ための手順は,3つあります(図2)。1つ目は,相手が話しやすいと思えるような態度を意識して取って聴くことです。これは前回,詳しく説明しました。2つ目は,相手の話しを正しく,より深く聴くこと。そして,3つ目は,相手の話の内容や感情に理解を示して聴くことです。今回は2つ目の,相手の話しを正しく,より深く聴くコツについて紹介しましょう。

図2●相手の話を「聴く」ための3つの手順
図2●相手の話を「聴く」ための3つの手順


自分の解釈を相手に直接確認する

 相手の話を正しく聴くために必要なことは,相手の話を聴いて自分が解釈したことが合っているかどうかを,話し手である相手自身に直接確認することです。

 直接話し手に確認することで,正しく聴けたか,相手の意図と異なって受け止めていないかが確認できるとともに,話し手もきちんと自分の話を聴いてくれていると感じます。

 一方,ただ頷いたり,相槌を打ちながら聞いてしまうと,違う意味に解釈していたり,聞き漏らしていたりすることがありますし,話し手の方も,特に複雑な話の時は,聞き手に自分の話がきちんと伝わっているかどうか不安になります(図3)

図3●相手の話を正しく聴くためにまず必要なことは,自分が解釈したことが合っているかどうかを,相手自身に直接確認すること
図3●相手の話を正しく聴くためにまず必要なことは,自分が解釈したことが合っているかどうかを,相手自身に直接確認すること


クローズ質問で確認する

 では,どのように確認すればいいのでしょうか。

 確認は,質問の形で,相手の話した内容を繰り返したり,自分の言葉で言い換えたりします。このときのポイントは,相手の答えがYES/NOで返ってくる「クローズ質問」にすることです。これにより,相手の話したことを確認でき,しかも相手の話の腰を折ったりさえぎったりしないで済みます。

 なお,YES/NOではなく,相手が自由に答えられる形式を「オープン質問」と言います。オープン質問は相手の考えや意見などをより深く聴くときに適した問いかけです(図4)

図4●クローズ質問とオープン質問
図4●クローズ質問とオープン質問

 ではSEの質問の仕方に注目して,次の顧客とSEの会話例をご覧下さい。

良い会話の例

顧客 「いままで手作業で行っていた部分をシステム導入で減らして,作業の効率化を図りたいんです」
SE 「システム導入による作業効率化が目的なのですね」
顧客 「ええ,そうなんです。これまでは月次報告をするのに,すごく時間がかかってしまって」
SE 「なるほど,月次報告のときに時間がかかってしまっているのですね?」
顧客 「ええ。しかもミスが多くて困っているんです」
SE 「ミスが多いと確かに困りますよね」

良くない会話の例

顧客 「いままで手作業で行っていた部分をシステム導入で減らして,作業の効率化を図りたいんです」
SE 「手作業の部分は現在どの範囲でしょうか」
顧客 「月次報告に関する部分ですね」
SE 「なるほど。では現在の月次報告のフローと処理の仕方はどのようになっていますか?」
顧客 「えっとですね・・・現在のフローは・・・・」

 どちらも間違った会話ではありません。では何が違うのでしょうか?

 良い会話の例では,相手の話したことについてクローズ質問を中心に,正しく確認しながら聴いています。このような聴き方であれば,聞き間違いもありません。話し手も安心して話を進められます。

 一方,良くない会話の例では,相手の話を聴きながら,確認することなく自分が聴きたいことだけをオープン質問を中心に訊いています。このような会話は話が発散しがちで,相手が話したいことを十分に伝えきれないまま終わってしまうことが多いので,気をつけましょう。