シン・クライアントとvProテクノロジーをはじめとする技術を実装した次世代PC。企業は,クライアントのリプレースに際して必ず選択を迫られる。それぞれの特徴を比較してみよう。

 シン・クライアントの専用機が今注目されている最大の理由は,ハード・ディスクを持たない点である。顧客情報などをダウンロードしようにも保存先がないため,漏えいリスクを下げられると見るユーザーが多い。

 シン・クライアントには大別して2種類がある。画面転送型と,ネットワーク・ブート型だ(図1)。画面転送型はサーバー・ベース型とも呼ばれ,アプリケーションをサーバー側で稼働させ,各ユーザーが共有する。ソフトのインストール,バージョンアップ,パッチ適用といった作業は,すべてサーバー側で一括実行でき,端末1台1台を管理する手間を省ける。

図1●シン・クライアントの形態
図1●シン・クライアントの形態
OSとアプリケーションをすべてサーバー側で動作させ,画面情報だけを送る画面転送型と,リモートにあるハード・ディスクをあたかもローカルにあるかのように使うネットワーク・ブート型に分かれる。 [画像のクリックで拡大表示]

 ただ,画面転送型には弱点がある。例えば,画面情報をやり取りするため画面の変化が激しい動画のようなアプリケーションを苦手とする点。製品の機能強化によって最近は状況が変わってきているが,従来はうまく稼働しないアプリケーションも少なからずあった。1台のサーバーで複数ユーザーのアプリケーションを稼働させるためである。

 これに対してネットワーク・ブート型は,サーバーにOSやアプリケーションのデータを置く。これらを端末起動時にダウンロードし,メモリーに展開して起動する仕組みである。起動後は通常のパソコンと同じ。アプリケーションの制約はない。ブート時に使うOS/アプリケーションを統一できるから,ソフトウエアの管理もパソコン環境よりはるかに容易になる。

 実は,画面転送型にも,いくつかの種類がある。ブレードPC仮想PCと呼ばれる仕組みがそれ。サーバーの代わりに,集中配置したブレード状のパソコンでアプリケーションを稼働させ,画面情報を端末に配信する。従来型のシン・クライアントとネットワーク・ブート型のちょうど中間的な仕組みと言える。サーバー・ベース型と違って,ブレードごとにソフトの更新作業などが発生するため,管理負荷という点ではサーバー・ベース型よりも手間がかかるが,エンドユーザーの端末をディスクレスにできる点は同じである。

パソコンを進化させる「vProテクノロジー」

 一方,インテルのvProテクノロジーは,あくまでもパソコン向けのアーキテクチャ。特定のCPUとチップセット,そこに組み込まれたファームウエアを組み合わせたものになる。従来のパソコンとの違いは,ハードウエア・レベルでクライアント管理の仕組みを備える点(図2)。肝は,クライアントのハードウエア/ソフトウエア情報を格納する不揮発性メモリーと,ユーザーが利用するOSの裏側で稼働する管理者用OSだ。

図2●vProテクノロジーの仕組み
図2●vProテクノロジーの仕組み
エンドユーザーの利用環境はそのままに,裏側で管理システムを動かすことで,従来のパソコンではできなかった管理性を実現している。

 vProのチップセットには,専用の不揮発性メモリーが含まれていて,リモートから参照できるようになっている。パソコンの電源が切れていてもメモリーには給電され,管理者は常にクライアントの状態を管理できる。

 さらにvProのファームウエアは,リモートから電源を投入できる仕組みを持つ。メモリーを参照して最新のパッチが適用されていないクライアントを探し出し,起動してパッチを適用するといった操作が可能になる。クライアント管理ソフトなどを使えば,通常のパソコンでも同様の管理は可能だが,電源が切れているクライアントには対応できない。