平井康文氏

 日本企業のトップは今年の年初に「イノベーション」「成長戦略」「現場力」という3つの言葉をキーワードとして選んだ。日本企業はバブルの崩壊後、雇用、設備、負債という3つの過剰を整理して復活を遂げ、積極的に事業展開している。

 そのなかで、業際を超えた新しいビジネスモデルが生まれている。セブン&アイ・ホールディングスはセブン銀行を設立し、銀行業務を手掛けている。また、NTTドコモと日本マクドナルドはおサイフケータイのジョイントベンチャーを設立する。

 こうした業際を超える新しいビジネス戦略を実現するべースに、インターネットに代表されるITがあることは事実だし、経営者の熱い思いと先見性、決断力があったことも否定できない。しかし、新しいビジネス戦略を実現化し、成し遂げたのは社員の力によるところが大きい。「社員力」こそ、当社が標榜する企業向けビジョンであるPeople-Readyビジネスの源泉だ。

 『第三の波』を書いたアルビン・トフラーの新著『富の未来』によると、工業社会では労働力や石油資源など限りある資源を効率よく分配することが重要だったが、知識社会における資源となる知識はたくさんの人が共有できる。このトフラーの指摘は、People-Readyビジネスの真髄を表している。

 企業にとって最も重要な資産は、社員であることは紛れもない事実である。今や業務プロセスの改善だけを論じても競争力の強化に限界があることは経営者の多くが認識している。組織の力、企業の力は社員の仕事の進め方そのものにかかっている。確かに「業務プロセスの最適化=コスト削減」という方程式もあり得るが、その一方で業務プロセスコストの大部分を占めるのが例外処理であるという事実は見逃せない。

 ある米国の調査によると、プロセスコストの7割を例外処理が占めている。その例外処理にうまく対応しなければすべてのプロセスが停止してしまう。例外処理を担うのは社員である。社員の力が業務プロセスに伴っていないと、業務プロセスコスト全体を最適化することはできない。People-Readyビジネスのコンセプトは、社員が持つ力を十分に発揮できるように、ビジネス環境を大きく変化させることにある。社員を主役にしたコラボレーションの“民主化”を実現することによって企業は大きな成長ができるだろう。

イノベーションの決め手はソフト

 社員が持つ潜在能力、想像力、問題解決力、モチベーションを維持し、発揮させるためには、それを支える情報基盤が必要となる。具体的に挙げれば、チームワークやコラボレーションを実現するIT基盤、セキュリティ対策やコンプライアンス順守のための基盤、無線LANやモバイル機器などを常時接続するネットワーク環境、情報を可視化したり分析したりするツールなどである。

 当社は、経営のイノベーションを起こすために、社員の存在に加えてソフトウエアが重要な要素であると考えている。各種のアプリケーションソフトが稼働しているときには、別のソフトがその稼働状態を管理している。また、社員の情報共有、意見交換、インテリジェンスの蓄積、さらにコンプライアンス順守のための環境構築にもソフトが重要な役割を果たす。企業の力は社員から生まれるが、その社員の力を引き出すうえでソフトが大きな力となる。人とソフトが相互に連携することによって、企業のパフォーマンスは向上する。

図●ソフトウエアの価値で企業のパフォーマンスは向上
図●ソフトウエアの価値で企業のパフォーマンスは向上

ソフトの3つの価値に注目を

 社員の能力を発揮するうえでソフトがもたらす価値は3つにある。第1は共同作業の簡素化で、それは統合化されたコミュニケーション化によって実現される。米国では2610万人の従業員が在宅勤務を行っているが、国土交通省の報告によると日本でも2005年時点でテレワーカーが674万人いる。これは全就業人口の10.6%に当たる。e-Japan戦略では2010年に20%に引き上げることを目標にしており、テレワーカーはさらに増える。このようにワークスタイルが多様化するなかで、共同作業を簡略化して、生産性を維持・向上させることが重要となる。そのときに求められるビジネスコミュニケーション環境はデバイスや場所に人が合わせるのではない。人を中心としたコミュニケーション環境が不可欠になる。それを実現するのはソフトである。

 第2の価値は、情報の検索とビジネス対応力の向上だ。企業のなかで毎日生み出される情報やデータは膨大な量となっている。1997年から10年間に北米の企業に勤める社員が受け取る電子メールの量は10倍になった。米バークレイ大学は2001年から2008年の間にデジタル情報が20倍以上に増大すると予測しており、さらに膨大な情報を扱わざるを得なくなる。こうしたなかで、ホワイトカラーが情報を検索・分析し、その結果を共有する時間が増加している。IDCの調査によると、1人の社員が情報を探すか分析する時間は全仕事時間の24%を占め、それを金額に換算すると年間160万円になる。こうした生産的ではないことにコストをかけているわけだが、これを解決するのもソフトである。

 第3の価値は、コンテンツの保護と管理である。個人情報保護法や日本版SOXによって企業は一段と高いレベルでのセキュリティ対策とデータ保護に取り組む必要がある。しかし、コンテンツの管理を強化することによって、社員の生産性が低下するようでは意味はない。コンプライアンスへの対応と社員の生産性とのバランスの最適ポイントを企業は見つける必要があるが、ソフトはそれに大きく貢献することができる。

 当社は、いろいろなソフトウエア製品を組み合わせて企業のIT環境に即した導入支援をお手伝いするとともに、ビジネスパートナーと幅広く連携してソリューションを提供している。アクセンチュアと共同で、すべての顧客接点でのビジネス状況を統合的に把握し、顧客対応を最適化するソリューションとしてCustomer CentricService Managementを提供しているのは、その一例だ。また、i2テクノロジーズ・ジャパンとはグローバルな製造業の調達、販売、在庫を一元管理するGlobalReal-Time PSIを共同開発し、SAPジャパンとはSAPのアプリケーションをOutlookで扱うDuetという製品の稼働を推進している。

 当社の役割は、社員の潜在力を最大限に引き出すために、(1)社員が使い慣れていて操作が簡単な製品を提供すること、(2)常に革新的なテクノロジを利用できるようにすること、(3)既存のビジネスアプリケーションをシームレスに統合すること、(4)全世界でパートナーとともに広くサポートすることである。日本が元気になるような新しいビジネスを顧客とともに創造していきたい。