前回紹介した弱点のうち深刻なのは,SIPサーバーの機能障害だ。IP電話にとって,SIPサーバーやVoIPゲートウエイは要となる装置。SIPサーバーに障害が起こると,登録しているIP電話機は一切使えなくなる。また,VoIPゲートウエイが壊れると加入電話と通話できなくなる。これらの装置の機能をできる限り保つ必要がある。

異常事態を見越して性能を確保する

 絶対に避けなければならないのは,IP電話サービスで起こったような処理能力が不足する事態。そのために,システムの性能を十分に確保する。大事なのはSIPサーバーの容量だ(図2-1の左上)。

図2-1●SIPサーバーやVoIPゲートウエイの信頼性を確保する設計
図2-1●SIPサーバーやVoIPゲートウエイの信頼性を確保する設計
まず容量を確保。次に冗長化を検討する。
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 SIPサーバーに必要な性能は,登録するIP電話機の台数で決まる。ベンダーは平均的な使い方の処理負荷を見込んで,SIPサーバーの機種ごとに登録台数の上限を設定しているので,それを基準とするとよい。

 ただし,登録台数の範囲内で機種を選択したりSIPサーバーの台数を決めても,処理能力が不足することがある。

 例えば,パターンを外れた使い方がある場合だ。短い時間に電話を集中して使ったり,複雑な付加機能を多用したりすると,SIPサーバーの処理能力が足りなくなることがある。このような場合,ピーク時の発着信量や使用する機能の負荷を分析して,SIPサーバーの処理能力を割り出す必要がある。こうしたときには,IP電話システムの構築ノウハウを持つインテグレータを活用するとよいだろう。

 SIPサーバーの機種によっては,IP電話機が一斉に登録してくるときの処理も考える。例えば,WAN回線が障害から復旧したようなとき。単位時間当たりの登録能力が小さく,すべての電話が使えるようになるまでに時間がかかるものがある。こうしたケースも想定しながら設計するのがいいだろう。

お金をかければ信頼性も上がる

 IP電話を安定運用するには,SIPサーバーの処理能力を確保するだけでは不十分。故障で機能が止まるのを防ぐ必要もある(図2-1の右上)。こちらの対策にはいくつかの種類がある。かけられる費用やどこまで電話を重要視するかによって考えよう。

 この対策としてもっとも簡単なものは,1台のサーバー機で電源やハードディスク,メモリーといった壊れやすい部分を冗長化することだ。ただし,1台のマシンへの対処なので,ハードの故障状況によってはSIPサーバーが止まってしまい,システム全体が停止する危険性はゼロではない。

 そこで,ハード障害でシステム全体が止まることを防ぐのが,サーバー機を複数台置いて常時同期させるクラスタリングだ。1台が障害になれば,残りのサーバーが処理を引き継ぐしくみだ。ただし,クラスタリングによる冗長化は,複数台のサーバーを離して置けない。大地震などで拠点全体が障害になると,SIPサーバーの停止は避けられない。

 拠点全体の障害からIP電話システムを守るには,別の拠点にバックアップ用のSIPサーバーを設置するという対策がある。多くのIP電話機は,バックアップ用SIPサーバーのIPアドレスを設定できる。運用中のSIPサーバーにアクセスできなくなると,アクセス先を切り替えてトラブルを回避する。

 各拠点に設置したVoIPゲートウエイを冗長化する方法は,SIPサーバーの場合より簡単だ(図2-1右下)。VoIPゲートウエイを複数台設置して,それぞれを別の電話回線につなぐ。加入電話サービスの代表着信サービスを使えば,違うVoIPゲートウエイで同じ電話番号が使える。