■お客様に提案書の内容を説明する。あるいは、セミナーで講演するなど、プレゼンテーションの機会は多いもの。プレゼンにおいて大切なことは何かを、ファシリテーションの視点で解説します。

(吉岡 英幸=ナレッジサイン代表取締役)


 プレゼンというものは、それがセミナーの講演であれ、提案書のプレゼンテーションであれ、一定時間“独りしゃべり”をしなければならない。どんなにドキュメントが充実していても、提案書の中身が相手のツボを押さえていても、肝心の「しゃべり」がダメだと、プレゼン全体が低い評価になってしまう。

「人前でうまくしゃべれるようになりたい」
「会議などでも理路整然と説得力のある話ができるようになりたい」
誰しもそう思う。

 「うまくしゃべる」は、聴き手にとって理解しやすく、また心地良くしゃべることだ。そうなるためには高い論理性と豊富な表現力が求められる。現在では、スピーチに関する教室もたくさんあるし、「プレゼン力講座」なんていう研修も多い。そのような場に参加して「しゃべり」を磨くというのもいいだろう。

 そうは言っても時間もコストもない方にとっては独学で学習するしかない。セミナーで講演する前などは当然何度もリハーサルをするだろうが、普段から簡単に取り組めるトレーニング方法があればそれに越したことはない。

しゃべりを鍛えるのに理想的な「朗読」

 「しゃべり」を鍛えるための簡単で理想的なエクササイズがある。それは「朗読」だ。朗読なんて、我々は小学校の授業以来とんとごぶさたしているが、朗読は言語を操るスキルを鍛えるうえで実に効果的なエクササイズである。小学校の指導要領とはよく考えられているものだとあらためて感心する。

 そもそも人間は言語を耳で聞いて、自分で実際にしゃべりながら覚えていく。朗読では、文章の内容を実際に発声して体で理解することと同時に、自分の発声した内容を聴覚で追体験しているのだ。

 スポーツで言えば、実際にプレイしながら、自分の動作をビデオで見てイメージトレーニングしているようなものだ。これほど体にしみることはない。

 私はファシリテーターとして仕事を始めたころ、プロのアナウンサーのレッスンを受ける機会があったが、その際に朗読の指導を繰り返し受けた。その後も朗読を続けることで自分の表現力が増していくことが実感できたが、同時に文章力や、しゃべるときの論理性が向上することに気づき、あらためてその効用に着目したのだ。

新聞の社説を毎朝朗読する

 それでは何を朗読すればよいか。おすすめなのは新聞の社説だ。毎日新しい社説が載り、ボリュームも、朝出社前にちょこっとこなせるぐらいの量で、毎日のエクササイズとしてはちょうどいい。

 何より新聞の社説は文法的な間違いがまずない。小説のようにクセもほとんどない。そして感情をこめずに読めば無機質にもなるし、表情豊かに読めばとても感情的にもなり得る。そもそもの文章自体が情緒的なものは、表現力を鍛えるうえではあまり適さない。むしろ新聞の社説のように、主観的ではあるが極めて冷静な文章がうってつけなのだ。

 皆さんも、ためしに新聞の社説を毎朝朗読することにトライしてみてはどうだろうか。3カ月もすれば、ものすごい論理性と表現力がついていることに気づくはずだ。新聞の社説で涙を誘うぐらいの表現力がつけば、あなたは最強のプレゼンテーターになっているだろう。


著者プロフィール
1986年、神戸大学経営学部卒業。株式会社リクルートを経て2003年ナレッジサイン設立。プロの仕切り屋(ファシリテーター)として、議論をしながらナレッジを共有する独自の手法、ナレッジワークショップを開発。IT業界を中心に、この手法を活用した販促セミナーの企画・運営やコミュニケーションスキルの研修などを提供している。著書に「会議でヒーローになれる人、バカに見られる人」(技術評論社刊)、「人見知りは案外うまくいく」(技術評論社刊)。ITコーディネータ。