岩井 孝夫
佐藤 三智子

 往々にして情報化の狙いである業務改善は,システムを構築する前に指摘された問題点の解決にある,と捉えられることが非常に多い。「ある業務の処理に時間がかかっているからコンピュータを利用して効率的に処理しよう」とか「こういうデータが欲しいから入力をこう変えてデータを捕捉できるようにしよう」といった具合である。

 このようなアプローチをして,情報化計画を立て,システムを構築した場合,果たして当初に設定した課題を解決した結果が,本当にベストのやり方で業務を改善できたかどうかを確かめているのだろうか。実際には,「この業務はこういう目的のために進めるべきだ」と考えてシステムを構築したものの,新システムとして使ってみると「この業務では想定と異なる別の目的のほうが重要だった」という事態になることが多い。

情報化の目的の達成度を検証せよ

 

 A社の場合,営業支援のためにグループウエアを導入したのは,進ちょく管理と情報の共有化・迅速化が狙いであった。だが,業務の担当範囲や権限・規定などを変えなかったために,グループウエアを入れてもうまく効果を出せなかった。

 研究開発部門は製品の見積もりの精度を確保するため,見積もりを作成する期間はこれ以上短くならない,と繰り返した。さらに,見積もりの権限はこれまで同様,研究開発部にないと実際の製品開発に対する責任をとれない,という主張を譲らなかった。

 しかし,営業部門から出た,「販売競争が厳しくなりスピードが勝負になってきている。新しい注文を獲得するために,見積もりの精度より,速度のほうが重要である」という声が最終的には大きくなった。

 結局,A社は初回の見積もりだけは営業部門が過去の経験値から概算して顧客に提出してよい,という方針を新たに定めた。ただし,正式な見積もりはこれまで同様,研究開発部の担当とし,研究開発部の見積もり担当者を複数人に増員した。

 営業部門は研究開発部が正確な見積もりできるように,顧客から新製品の要求仕様をできるだけ詳細に聞き出すよう,これまで以上に力を注ぐことが義務づけられた。新しい分担になったため,最初は仕事の進め方がぎくしゃくしていたが,徐々に見積もりの期間は短縮され,現在では3日以内に顧客へ最終見積もりを返答するのが当たり前の状況になりつつある。

 B社の場合は,情報システムだけでは解決しきれない問題がもともとあり,その課題を覆い隠していた他の問題が解決されたときに,真の課題が前面に押し出されてきたケースである。

 B社は検討の結果,OCRで毎日取り込んだメモ・データをPDFファイルとして格納することを決めた。PDFファイルは受注先・発注先別,日付別,用件別に参照できるようにした。索引を何種類か作り,言葉を選べば関連するメモがすぐに画面に出てくるように,ファイル間にリンクを張った。

 メモ・データを整理したことで,受発注の処理をしているときでも,わざわざ席をはずして紙ファイルに入っているメモを取りにいかなくても,同一の画面の中から該当するメモが入っているPDFファイルを直ちに開き,必要なメモをすぐに取り出せるようにした。B社は今後,各種の規定やマニュアルについても同様の方法で電子ファイルに格納していく計画である。