岩井 孝夫
佐藤 三智子

 どんなに高機能の情報システムを構築しても,社内の利用者が使ってくれなければ話にならない。システムを構築する時に最も重要なのは,「どうやったら利用者に使ってもらえるか」を考え抜くことである。後編では,構築に苦労した2社の事例を紹介する。

使われなかったシステム (1)
新たな業務手順に現場がそっぽ

 製造業のC社は長期にわたって対症療法的に情報システムの手直しや導入を繰り返してきた。そのため,個別に導入されたシステム間の連携に問題が生じ,必要な情報が丸1日待たないと出力されない状態になっていた。

 C 社の情報システム室には,個別の帳票やシステムの修正依頼が引きもきらず,システム全体の見直しまでとても手が回らない状態であった。そこで情報システム室長はコンピュータ・メーカーのシステム・コンサルタントに,業務の改善を含めた情報システムの再構築を依頼。手始めに在庫管理システムを手がけてもらうことにした。

 システム・コンサルタントは,現場の担当者をはじめとしたメンバーにインタビューし,その結果をもとに新しい業務仕様をまとめた。だが,業務仕様を見た情報システム室長は現状の業務の処理とあまりに異なるのでびっくりした。しかし,システム・コンサルタントは,「このやり方が最も効率的だし,これならパッケージを使って非常に安価かつ短期間でシステムを構築できます」という。コンサルタントは他社の成功事例も詳しく紹介した。

 確かに業務仕様は斬新で魅力的だし,他社でもうまくいっているということだ。なによりも費用が安い。情報システム室長は「そろそろ我が社もこういうやり方をすべきかもしれない」と判断,社長や経営陣を説得して新システムの構築に踏み切った。

 構築は比較的短期間で終了,研修の時期になった。ところが新システムに触れた社員から,「今までと業務のやり方が全然違う」「こういう考え方の業務処理は理解しにくい」などと,業務仕様について不満が続出。研修はさっぱり進まなくなってしまった。

 それでもなんとか操作方法だけは教え込み,本番稼働の日を迎えた。しかし,業務のやり方自体に現場利用者が慣れていない上に,本来必要のない作業も多く含まれていたこともあって,現場の不満は日を追って大きくなった。ついには担当役員のところまでクレームが届いてしまった。

 結局,稼働してから3カ月が経過しても,新システムはほとんど使われず,業務は手作業で処理する状況に陥った。システムを個別に修正しようとしても,パッケージであるため,かなりのコストがかかることが判明した。検討の結果,C社は新システムを廃棄し,業務改善のあり方からもう一度しっかり詰め直すことにした。安かったはずの新システムは非常に高くついた。