最初にひとつ質問させていただきたい。

 あなたはある街で紳士服店を営んでいたとする。しかし、その街には人気の百貨店があり、買い物客の多くがその百貨店に足を運んでいる状況だった。そこで、あなたは百貨店への出店を交渉し、何とか運良く出店できる運びとなった。出店する場所は自由だとする。さて、あなたはどこの売り場に出店するか?

 おそらく常識的に考えて、ここで食品売り場と答える人や婦人服売り場と答える人はまれだろう。しかし、リアルの世界のこの常識は、時として検索エンジンを舞台としたSEMの世界では通用しないことがある。

 SEOを行なう人間のなかには、会社の事業内容やサイト内容を無視して、検索回数だけでSEOの対象キーワードを選ぶ人たちがいる。例えばそれは、さきほどの百貨店の例で言えば、食品売り場が一番人の往来が多いため、紳士服店を食品売り場に出店しようとするような行動だ。

 そんなことをすれば、百貨店自体の信用が低下し、せっかく人が集まっていた百貨店の人気を衰退させることになる。

 つまり、会社の事業内容やサイト内容を無視し、検索回数だけを頼りにSEOを行ない、上位に表示されたとしても、見せかけの一時的なアクセス数の増加になるだけで、結局は見込み客の誘導にはつながっていない。だから、ほとんどの場合、売り上げにもつながらない。

 しかも、さらに最悪なことに、そうした行為はそもそもユーザーの検索エンジンに対する信頼を損なう危険性が高い。だから、せっかく見込み客を効率的に自社サイトに誘導できるSEMという新たなマーケティング手法が誕生しても、その活動の場である検索エンジンへの信頼自体を破壊することにつながる。

 こうしたことは、我々検索ビジネスに関わる人間ばかりではなく、そこでマーケティング活動を行なう企業、ひいては検索によって生活の利便性を高めたいと考えるユーザーにとっても不幸な結果を招くことは間違いない。

 SEOとは、紳士服売り場のなかで、いかにエレベーターやエスカレーターの乗降口など、人の往来が激しい場所に自分やクライアントが運営する紳士服店を出店できるかを競う手法だ。人の往来が激しいからといって、食品売り場に紳士服店を出店するような手法ではない。

 もし、どうしても食品売り場に出店したいのなら、事業を転換するか、事業を多角化し、食品の取扱事業を今すぐ始めるべきだろう。

 それが不可能であれば、自社の事業にとって最適な売り場を見つけ出す努力が必要だ。幸いにして、検索エンジンという百貨店は、10フロア程度のリアルの百貨店とは異なり、キーワードごとにフロアが分かれている。例えば、「リクルート スーツ」と「フォーマル スーツ」ではユーザーが求めるフロア(検索結果)は自ずと別だ。

 こうしたことを意識する必要性はもちろんSEOという手法だけに限ったことではない。検索連動型広告においても、入札するキーワードの精査を徹底し、除外キーワードの設定を有効的に使うなどして、関連性の低いキーワードへの広告露出を抑制することが重要だ。なにしろ、紳士服店が「サウナ スーツ」や「スーツ 女性」といったフロアに顔を出しても、そのフロアにいらっしゃるお客様には決して喜ばれるわけではないのだから。

「リクルート スーツ」 19,959回
「フォーマル スーツ」  9,524回
「サウナ スーツ」   15,982回
「スーツ 女性」    13,129回
※回数はオーバーチュアが提供する「キーワードアドバイスツール」による2007年1月の月間検索数

(執筆:R&Dグループ 市川伸一)






 本コラムは、アウンコンサルティングのサイト 「(((SEM-ch))) 検索エンジンマーケティング情報チャンネル」に連載中の「SEM特撰コラム」を再録したものです。同サイトでは、SEOや検索連動型広告など検索エンジンマーケティング(SEM)に関する詳しい情報を掲載しています。