携帯電話を使って株式売買をする「モバイル・トレーディング」は、ビジネスパーソンを中心に利用者が急増している。ネット証券も機能やサービスの強化に取り組んでいる。いつでもどこでも売買できる利便性が最大のメリットだけに、手軽に利用できる環境づくりが競争力の決め手となりそうだ。

 携帯電話は今や、単なる通信用機器ではなく、様々な金融サービスを受けるための重要なツールとなった。決済端末(電子マネー機能)としての普及も本格化しており、携帯電話1台あれば、どこにいても必要なときに銀行や証券会社の金融サービスを受けられるようになった。

 そんな中、急増しているのが携帯電話を利用した株式売買、いわゆるモバイル・トレーディングを利用する個人投資家である。1 日に何回も売買を行うデイトレーダーの場合はパソコンが必須だが、ビジネスパーソンは会社のパソコンを私用で使用できない。モバイル・トレーディングの最大のメリットは時間や場所を選ばず、「いつでもどこでも」売買できる利便性だ。昼休みや外出した際の移動時間などに、ビジネスパーソンが「ケータイ・トレーダー」化しているというわけである。

 インターネットの通信速度の大幅な向上、通信料金の劇的な低下に加えて、大型で見やすいカラー液晶ディスプレイの採用など、携帯電話の機能が高度化して、パソコン並みのトレーディングが可能になったことが背景にある。

パソコン不要な携帯電話専用の口座も誕生

 こうした流れに合わせてネット証券各社は、携帯電話向けの売買機能やサービスの強化に取り組んでいる。ほとんどのネット証券ではパソコン用に開設した口座を使って、携帯電話からでも売買できるようになっている。

 自宅のパソコンはほとんど使わず、携帯電話で済ませているビジネスパーソンも少なくない。そんな人には、松井証券が提供する携帯電話だけで携帯電話専用の口座を開設して取引できるサービスの利便性が高い。

 モバイル用サービスとしては、株価の自動更新機能や、アラートメール機能(登録した銘柄の株価があらかじめ設定しておいた目標株価に到達したら、自動的にメールで知らせてくれるサービス)は必須だ。また株価チャート表示サービスや、相場概況の通報、個別銘柄に関するニュースの情報配信も平均的なサービスとなった。

表1●主なネット証券が提供しているモバイル用サービス
表1●主なネット証券が提供しているモバイル用サービス
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 さらにモバイル専用のトレーディング・ツールも用意されている。自宅のパソコンに自動売買システムを設定しておけば、外出時でもトレーディングの途中経過や結果を携帯電話のメールで確認することができる。外出先から携帯電話で指示を出すことも技術的には可能だ。

今後のカギとなる中高年・夜間取引市場

 中高年の利用が活発化していることも、最近のモバイル・トレーディングの特徴だ。中高年の利用者は店頭での対面取引の経験があり、口座への入金金額が多額で、中長期的投資のための取引に利用する投資家が多いと言う。ネット証券から見れば、操作方法を簡単にするなど中高年でも利用しやすく工夫することで、従来のサービスでは取り込めなかった投資家層を獲得できるチャンスを作り出せる。

 「いつでも取引できる」という点では、ネット証券の夜間取引市場の利便性向上も今後の課題であろう。カブドットコム証券の夜間取引市場では、売買価格の決定方式は証券取引所と同様のオークション方式を採用している。取引時間中は日中と同様に、個別銘柄ごとの価格別の売買注文数も表示される。マネックス証券の「マネックスナイター」では、売買できる値段を証券取引所での当日の終値に一本化して、利用者同士の相対取引という形を採用している。

 SBIイー・トレード証券や楽天証券なども、夜間取引市場を開設する準備を進めている。こうした夜間取引市場が出そろい、参加者が増えて取引が本格化すれば、個人投資家が日中以外にも取引できる機会が広がる。いずれは24時間取引が実現するかもしれない。こうした動きは、夜型へシフトする現代人の生活に合わせた流れでもある。

 個人投資家がネット証券を選択する際のポイントは、第一に売買手数料の安さ、第二に機能やサービスの使い勝手の良さである。いくら手数料が安くても、使い勝手が悪く機能が不十分では利用できない。1日の取引回数を考慮すれば、モバイル・トレーディングの分野では特に、使い勝手の良さが重要視されるだろう。そして「手軽に」取引できる環境づくりが競争力の決め手となりそうだ。

犬丸 正寛(いぬまる まさひろ)氏
日本インタビュ新聞社 代表取締役社長
1944年生まれ。大阪商業大学商経学部卒業後、大手証券専門新聞社に入社。取締役編集局長・取締役IR局長を経て、99年に日本インタビュ新聞社設立。あらゆるメディアを活用した企業と投資家を結ぶIR支援事業「Media-IR」を展開。メディアなどに執筆するかたわら、経済・株式評論家としても活躍中