岩井 孝夫
佐藤 三智子

 中堅企業が情報化を進めるに当たって苦労するのは,情報化の予算をどのようにとるかである。予算の上限が決まっていることが多いので,開発する情報システムの機能を必要不可欠なものに絞り込む必要がある。その一方で,システム開発以外の運用・維持にかかる費用もしっかり押さえておくべきだ。研修やマニュアル整備,フォロー・アップ体制の確立,といった作業にきちんと予算をつけてこそ,新システムは機能する。

 情報システムを導入するに当たって,「こういう手順で,このように計画を立て,機器やソフトをこうして調達しなければならない」といった公理・公式は存在しない。会社の規模や業務内容,情報化に際して設定した目標などによって,システム導入の手順は千差万別となる。

 最も重要な作業と言える情報化予算の組み方や,システム費用の算出方法にも定番があるわけではない。それだけに,予算をきちんと組めるかどうかで,情報化の成否は大きく左右される。

予算の壁 (1)
支出できる金額と予算に大差

 「こんな金がどこにある! 桁が違う桁が!うちの売り上げ規模が分かっているのか!」。精密機器メーカーA社の資材部長が社長から大目玉をくらっている。

 資材部長は日ごろから,「もっと正確に資材を把握し,資材管理コストを削減する工夫をしろ」と社長に言われていた。そこで,バーコードを利用した新しい情報システムを導入し,原材料の仕入れや在庫をきっちり管理しようと考えた。

 ところが,コンピュータ・メーカーに相談し,ハードやソフトなど新システムの導入にかかる諸費用を積み上げたところ,実に2億円近くにまでなってしまった。2億円といえば,A社の売上高の5%であり,社長が怒るのも無理はない。

 もちろん,資材部長は投資できる範囲に限りがあることをコンピュータ・メーカーに伝えながら,計画を練っていった。だが,これも必要,あれも必要,と機能を盛り込んでいくうちに,いつしかシステムが肥大してしまった。

予算の壁 (2)
維持・運用費を見落とす

 化学品製造のB社は96年に物流システムを一新した。狙いは,創業以来ほとんど手作業で処理してきた物流業務をできる限り自動化すること。B社は構想から 2年をかけて新システムを稼働させた。物流業務を非常に効率よく処理できるようになり,さらに顧客サービスの内容も向上した。B社の現場からも新システムは好評を博していた。

 しかし,思わぬ問題が生じた。本稼働から1年ほどたったある日,システム開発の責任者である物流部長は社長から呼ばれ,こう言われた。

 「新物流システムは現場も満足するものができた。ご苦労だった。しかし,今朝,経理部長から報告を受けたところ,稼働から1年たった現在でも,システム関連費用が年間1億1000万円もかかっているという。君がシステム計画を作成した時の説明では,稼働後の年間費用は6000万円だった。現状はその2倍もかかっている。これでは,計画通りの投資回収ができないのではないか」。

 物流部長が「計画を審議した時は,ハード/ソフトの購入費用とシステム開発費用だけを計上しており,システムを維持・運用する費用は見積もっておりませんでした」と回答したところ,社長は怒り出した。

 「君はそう言うが,投資回収計画とは3年間なり5年間にかかる全支出を対象に考えるものではないのか。5年間を区切りとして,新システムの投資回収についての見通しを大至急,報告せよ」。

 物流部長は早速,費用対効果の積算を始めたが,運用費用まで取り込むことを考えると,とても5年間で投資を回収できそうもないことが分かった。「大きなミスをしたのか,何が間違っていたのか」と,物流部長は頭の痛い日々を送っている。