岩井 孝夫
佐藤 三智子

 前回,B社が現場の反対を受けて,情報化計画を中止した話を紹介した。B社の社長は推進役が不在である危険を感じて,計画を中止したと言える。どんな素晴らしい情報化計画であっても,実際にシステムを使うのは現場である。現場が受け入れる可能性のない計画を無理強いして押しつけてみても,成功する可能性は小さいと判断してのことであった。社長の指示は絶対である。B社は情報化を諦め,現在も手作業で業務を処理している。

諦めずに説得を繰り返す

 B社の係長は計画を策定する途中で,現場の実力者やその幹部が信頼する部下などに意見を求めるといった,予想されるアレルギ反応を和らげる対策をとっておく必要があった。慣れ親しんできた従来の方法をコンピュータというよく分からない道具を駆使して一新するとなれば,保守的な反動が出て来るのは否めないことだからだ。

 そして反対されても,すぐに諦めるのでなく,辛抱強く説得を続ける。情報化についても啓蒙活動も行うことである。会社の将来の見通しや業務改革の方向に関して現場を交えた意見交換の場をつくるとか,コンピュータのデモや発表展示会に現場の人間に行ってもらうとか,ノート・パソコンを現場へ持ち込んで便利さをアピールする,といった具合である。

 同時に,コンピュータが仕事をするわけではなく,情報化イコール社員の切り捨てを意味しないことを理解してもらうよう努力を続けることである。

途中で息切れの壁 (1)
理想の追いすぎは危険

 中堅薬品メーカーのC社のシステム担当者は今,意気消沈している。97年に,前々から感じていた現状の情報システムの古さと,システム革新の必要性を社長に訴え,「分かった。全部お前に任せるから好きなようにやってみろ」と社長から言われたときには,意気軒昂,やる気満々だったにもかかわらずである。

 システム担当者はせっかくの大金を投じるのだから,21世紀に入っても使えるような最新鋭の情報技術を投入し,業務面についても大きく見直し,将来に向けて革新的な業務手順を採用しようと考えた。

 入力データはすべてリアルタイムに更新する,営業マンにはモバイル端末を持たせて,どこにいても,どんな時でもほしい情報が手に入るようにする,社内の情報連絡はすべて電子メールで行うといった計画を練り上げた。

 しかし,この計画を関係部署に図り,検討を進めようと思ったあたりから真の苦労が始まった。新システムは現状の業務の仕組みや社内ルールと全然かみ合わなかったため,現場の抵抗が強くなかなか説得できない。

 それでも推進役であるシステム担当者は現場の協力をなんとか取り付け,一部の内容については妥協し,業務改善の細目を決めるところまでこぎつけた。ところが,実際のシステム構築に入ったとたん,今度は技術的な問題が大量に発生し,意図した機能のシステムになりそうにもないことが分かってきた。

 コンピュータ・メーカーは言い訳を数々並べるが,専門的すぎて担当者にはよく分らない。しかもメーカーはSEの数が不足して予定した納期に間に合いそうもない,と言い出した。

 「絶対成功させます」と大見得をきって,社長はじめとする社内のメンバーを説得した手前,今さらうまくいきませんとは言えない。成果が見えないまま,システム担当者は悶々として毎日を送っている。

途中で息切れの壁 (2)
安易にプロジェクト期間を短縮

 製造業のD社のシステム担当者は,情報システム化計画の書き直しを進めている。経営トップから計画の承認を取り付けたが,実現時期を半年短縮せよ,という注文が社長からついたためである。当初計画では2年をかけるはずだったが,これを1年半で実現しようというのである。

 コンピュータ・メーカーに相談すると,業務細目の検討期間を1カ月短縮し,開発すべき機能も一部縮小する。総合テスト期間やユーザー教育期間をそれぞれ半月程度きりつめていけば,ギリギリではあるが,全体で半年の短縮は可能だと進言してきた。

 システム担当者はメーカーの意見を基に計画を作り直した。だが,プロジェクト全体の進行管理は自分しか担当者がいない。システム担当者はこんなに簡単に計画を変更してしまっていいのだろうかと不安を抱いている。