岩井 孝夫
佐藤 三智子

 かつてのA社のように会社が急成長している時にも,企業の命運を握る「情報」がさまざまな形で見え隠れしているのだが,忙しいという「現象」の中にその情報は埋没してしまう。しかし,いったん不況になると,この「情報」が重要な価値を持ってくる。今まではなにもしなくても注文がとれた顧客に対して,今度は何か「手」を打たなければならないのだから,そのためには裏付けとなる「情報」が不可欠なのである。

システムの価値を理解させる

 好調時の情報システムは,単なる「データ処理マシン」だったから,戦略を打つための「情報」を取る仕組みが組み込まれていないケースが圧倒的に多い。そこで情報システムの再構築という課題が浮上してくる。しかし,この課題をなかなか理解できない経営者は少なくない。

 こうした経営者に理解してもらいたいのは,「情報システム」と「コンピュータ」の違いである。情報システムとは,価値のある「情報」を活用するためのもの。つまり,さまざまな事象を分析して次に打つべき手の裏付けとなるデータを提供し,経営の武器となるものが「情報システム」である。

 情報システムを「コピー」や「ファクシミリ」と同様の,単機能の「コンピュータ」と見ている限り,有用な情報活用の意識は生まれてこない。

 A社のような環境にある,情報システム担当者に必要なのは,会社における情報システムの役割を明確に位置付けることである。そして,システムを経営状況を写し出すいわば「鏡」と考えて,システム構築に取り組む必要がある。

 A 社の情報システム部長は社長の説得には時間がかかると覚悟し,他の企業における情報分析の事例を調べ,それらを使いながら社長に「情報システム戦略とは何か」から説明。自社の状態が過去と現在でどのような変化があったのか,ここで体質を変えるために手を打たないとどういう危機がくるか,といった点を粘り強く訴える作戦に出た。

 そして今後の業績向上のために,今までのように「業務をサポートする役割」に加えて,「経営判断を支える有力な武器の役割を担う情報システム」を作り上げることこそ重要だと繰り返し強調した。社長も徐々に自社の情報システムが如何に遅れているかに気づき始め,ようやく情報システム部長の話を真剣に聞き始めた。

ポイントを絞って説得する

 B社のように,たたき上げの経営者が現場の細かい部分までチェックしてくる光景は,中堅企業でよく見られる。経営者自身が試行錯誤を繰り返して,現状の業務の流れを創り上げてきたわけで,全体よりもまず個別に問題の発生しそうな箇所に目が行くのは仕方がない。

まず,こういうタイプの経営者に,最初から全ての資料を見せることは厳禁である。資料を手渡した途端,自分の関心のある部分を真っ先に読み出し,納得できない所を探し始めるからである。

同時に,話題を細部へそらされないように注意する。自分がこの場で主張したい話の筋(ストーリ)を簡潔に整理しておいて,経営者が横道や細部に話をそらそうとしても,すぐ本筋に戻せるように心掛ける。

そして,その説明の場でもらいたい承認の内容をはっきりさせる。今日は「大枠の方向性についての承認」なのか,「概算費用についての承認」なのか,「採用する技術についての承認」なのかを最初に説明する。例えば「方向性についての承認」ならば,細目・詳細についての承認は別途,後日いただきたいと最初から明言しておく。

 一人で行くとどうしても経営者のペースにはまってしまう場合には,あらかじめ経営者を説得できる人物,できれば副社長や専務など役員を味方につけて,同行してもらうとよい。

B 社の工場の責任者は,日ごろから仲のよい経営企画部の部長に相談し,社長へ報告する時に同席してもらうことにした。あらかじめ二人でシナリオを決め,片方が詰まったらもう一方が助け船を出すことも決めた。資料はスライドの形で見せ,会議が終わるまで社長には紙を渡さないようにした。

会議が始まると,社長は「資料はないのか」と繰り返し,不満そうであった。だが,スライドが終わるまではとりあえず話を聞いてくれた。こうしてなんとか大枠については社長の了承を取り付けることができた。