IP電話の障害は,復旧までに時間がかかるだけでなく,影響が広範囲に及びやすい(図5)。その理由は,(1)呼の規制や制限が難しい,(2)従来の交換機よりもサーバー数が少なく1台のサーバーが収容する加入者数が多い,からだ。そのため,障害が広範囲に及ばないようにする極小化の技術を取り込むことがこれからのIP電話サービスの課題となってくる。

図5●IP電話のトラブルが広範囲に影響を与える理由
図5●IP電話のトラブルが広範囲に影響を与える理由
IPのネットワークでは,呼の規制や制限が難しいため障害が広がりやすい。また,従来の交換機よりもIP電話のサーバーは1台に収容する加入者数が圧倒的に多いため,障害の影響は広範囲にわたる。  [画像のクリックで拡大表示]

現状では難しいきめ細かいふくそう制御

 東西NTTのひかり電話だけでなく,ソフトバンクBBのBBフォンやケイ・オプティコムのeo光電話の障害は,いずれもふくそうが発生し,それが波及することでサーバーの処理能力低下などを招いた。障害を最小限に食い止めるには,ふくそうを抑える技術がカギとなる。だが「IPでは,(従来の交換機ベースの)電話のようなきめ細かいふくそう制御を実現する技術がまだ確立されていない」(NTTコミュニケーションズ ブロードバンドIP事業部VoIPサービス部サービス企画担当の高山充担当部長)。

 従来の電話とIP電話でのふくそう対策の違いとして,分かりやすいのが「企画型ふくそう」への対応。コンサートのチケット予約など,あらかじめ特定番号への発呼が集中することが分かっている場合のふくそう対策である。

 この場合,従来の交換機ベースの電話網では,各加入者交換機に対して特定電話番号への発信を「2回に1回は話中で返す」といった条件の設定が可能で,センターから一括して作業できる。だがIP電話の場合,そうした規制をすることが現状では難しい(図6)。

図6●IP電話サービスの提供事業者によって異なるふくそう制御
図6●IP電話サービスの提供事業者によって異なるふくそう制御
一般にIP電話サービスでは,加入者側から加入者系呼制御サーバーに対する発信規制はできない。フュージョン・コミュニケーションズは加入者系呼制御サーバーの手前で一部の通信を制限できるようにしている。  [画像のクリックで拡大表示]

経路を増やして“目詰まり”防ぐ

 IP電話網と加入電話網の接点は通信が集中しやすく,障害のポイントにもなりやすい。

 東西NTTのひかり電話の加入者数は急激に伸びているとはいえ,現状は圧倒的に固定電話や携帯電話のユーザー数が多い。ひかり電話からこれらにかける場合,中継系呼制御サーバーから加入電話網の関門交換機に通話が流れることになる(図7)。

図7●障害発生前と障害対策後のひかり電話の中継系サーバー
図7●障害発生前と障害対策後のひかり電話の中継系サーバー
東西NTTは障害後,中継系呼制御サーバーを増強し,各地域での加入電話網との経路を複数確保した。  [画像のクリックで拡大表示]

 従来,各地域の加入電話網側の関門交換機の大部分はひかり電話網の中継系呼制御サーバー1台とだけつながっていた。例えば2006年9月のNTT東日本の障害では03地域の関門交換機と接続している中継系呼制御サーバーが障害を起こした。そのため03地域のひかり電話への通話すべてが影響を受けた。

 2006年10月に発生したNTT西日本の障害でも,ここが問題になった。呼処理サーバーの増設後,様子を見るために関門交換機と中継系呼制御サーバーとの間の接続回線数を絞ったのが裏目に出た。少なくなった回線の“取り合い”で電話がかかりにくくなり,かえってサーバーの負荷を大きくしてしまったのだ。

 東西NTTは中継系呼制御サーバーの増設を2006年度末までに実施。増設に合わせて加入電話網側の相互接続用関門交換機との経路を複数用意することで,従来よりもふくそうを回避しやすいようにする(図7参照)。例えば中継系サーバーが1台動かなくなったとしても,他の中継系サーバーに通話を流せるため,全く通話できなくなる事態を防げる。「このあたりの構成は障害後,大きく変わった」(NTT東日本の西部長)。