財務アナリストでインターネット投資情報企業の米Monitor110社長兼COOでもあるRoger Ehrenberg氏が最近公開したレポート「When Will Microsoft Own Up to the Xbox 360 Bomb?(Microsoftはいつ『Xbox 360爆弾』を認めるか)」が話題を呼んでいる。同レポートは,Xbox 360が究極のビデオゲーム・コンソールだと指摘する一方で,Microsoftは,Xboxと同じようにXbox 360によっても財務的に大きなダメージを受けていると指摘した。

 Microsoftはゲーム事業に資金を垂れ流すのを止めて,Microsoftとその株主にとってもっと見返りの大きい市場へ方向転換する時期が来ているのだろうか。Ehrenberg氏はレポートの中で「Microsoftがゲーム分野に注いだ労力は,特に投資という観点からは,悲惨な結果を招いた。5年間にわたって210億ドルを超える額を投資した結果,54億ドルの累積損失が発生した上に,Xbox 360は問題を解決する特効薬ではないことが分かった」と述べている。

 Ehrenberg氏が提示した財務データは信頼できるが,Xbox 360に関するレポートは日本市場を重要視しすぎている。日本市場は,ビデオゲーム業界では確かに重要な市場であり,Xbox 360はその市場で結果を出せていない。しかし,Xbox 360は北米やヨーロッパなど,日本以外の重要な市場では良好な実績を残しており,Ehrenberg氏が日本市場を重要視したという事実は,彼が自分で述べているほど「無党派」な人物ではないことを示唆している。ビデオゲーム・コンソールの販売傾向を見る場合,単一市場ではなく世界全体を重要視するのは当然のことだ。

 ただし,Ehrenberg氏が「Microsoftでは製品に関する意思決定を行う人々の意識と,参入しようとしている市場の現実との間にギャップがある」と指摘しているのは正しい。彼はレポートの中で「ハードコア・ゲーマー向けのハイエンドなゲームコンソールと,誰でも使えるコンソールのどちらを選ぶか。ZuneはiPodの対抗馬になりうるのか」と思案している。この場合,Xbox 360とZuneがどちらもMicrosoft経営陣の発案による製品であるという事実は偶然ではない。Ehrenberg氏は「フォーカス・グループに誰が参加していたかは知らないが,明らかに市場を読み間違えていた。このような間違いが起きたのは,企業規模が大きすぎるせいなのか,それとも単に戦略に欠陥があったからなのか。明らかに何かが間違っている」と述べている。

 もちろん,Xbox 360の問題はこれだけではない。Xbox 360はハードウエアの信頼性が非常に低く,それに対するユーザーの不満を収めるために,Microsoftはその保証期間を少なくとも2倍に延長することを余儀なくされている。動作中のXbox 360は騒音がひどく,非常に高温になるため,とてもリビングで使える代物ではなく,信頼性が低いのもそれらの問題点が原因であることは間違いない。さらに,Xbox 360にはさまざまな状況でゲーム・ディスクにひっかき傷がつくという問題がある。この問題は,リリースから1年半が経過してもなお,Microsoftが公式に認めていない。その一方で,技術的には精彩を欠いた任天堂のWiiがXbox 360を上回る売上を記録し続けているし,ソニーも大量にPlayStation 3を販売している。Xbox 360がそれらの後塵を拝するのも時間の問題だ。

 では,Xbox 360とMicrosoftがゲーム分野に注いだ労力にはどのような未来が待っているのだろうか。Xbox 360のエコシステムが期待はずれだった場合,筆者はMicrosoftにこの分野から手を引いて,先に進むことを提案する。

 残念なのは,Microsoftが作ったXbox 360は,高品質なオンライン・サービスを利用できる本格的なマルチメディア機能を搭載した素晴らしいゲーム・コンソールであることであり,Xbox 360こそがゲームの世界で現在得られる最高のトータル・エクスペリエンスをゲーマーに提供しているということだ。Microsoftが,信頼性がもっと高く騒音も少ないコンソールを開発すると同時に,この分野で利益を上げる方法を見つけることができれば別だが,それができないのであれば,Xbox 360はゲームオーバーになるかもしれない。