コンピューターが自動的に銘柄を選択して売買注文を出し、確実に利益を上げる――。そんなロボットが欲しいと投資家なら誰でも夢見るだろう。こうした夢のような株ロボットが実現するかもしれない。アルゴリズム取引の技術向上と普及を目指す「カブロボ・コンテスト」も、そんな期待を抱かせる。

 カブロボ・コンテストは、2004年に早稲田大学の研究プロジェクトとしてスタートしたコンピューター・プログラミング・コンテストである。カブロボというのは、銘柄選択から売買発注まで、一定の処理手順に従って株式を完全自動売買するソフトウエアのことだ。

 「25日移動平均線を下回ったら売り」「移動平均線がゴールデンクロスしたら買い」などの売買ルールがあらかじめ組み込まれており、条件を満たす銘柄を自動的に抽出して売買注文を出す。コンテストは実際の株式市場の値動きを使って一定期間、このアルゴリズムに基づく仮想的な売買で運用成績を競う。

 2回のカブロボ・コンテストを経て、06年8月~12月には、カブロボの実用化を視野に入れて第1回スーパー・カブロボ・コンテストが開催され、約6000名が参加した。優秀ロボットに選出された10台のカブロボには、総額5億円の実資金を運用する権利が授与され、07年には実験的に現実の取引が開始される。

図1●運用成績を競う「カブロボ・コンテスト」
図1●運用成績を競う「カブロボ・コンテスト」

カブロボに必要な3つの機能

 カブロボ・コンテストを主催しているのはマネックス証券と早稲田情報技術研究所が、06年4月に共同で設立したトレード・サイエンスだ。同社はカブロボを使った投資助言サービス、資産運用サービスを提供することを目的として設立された。

 同社は、株式市場の各種データや過去の値動きなどを下地にして自動売買プログラムを開発し、投資信託の運用などマネックス証券の投資家向けサービスに組み込むことも狙っている。コンテストに登場するアルゴリズムは個別銘柄のチャート分析に基づくものが多いが、ネット上の様々なニュースや書き込みなどの情報も参考にして銘柄を選択する仕組みも取り入れる方針だ。

 カブロボには3 つの機能が必要となる。第一に銘柄を抽出する機能である。銘柄を抽出する条件を設定できるようにし、その条件を満たす銘柄を自動的に選択する。第二に情報収集機能である。銘柄を選択したり売買タイミングを決めるために、株価データなど様々な情報を取り込む。第三に自動発注機能である。

 売買すべき銘柄が決まれば、証券会社に対して適切なタイミングで自動的に売買注文を出す。もちろん、それぞれの注文に対して利食いや損切りなどの反対注文も出す。どんな銘柄を売買するのかという売買ルールには、確率的な裏付けが求められる。したがって過去の膨大なデータを検証して、勝率の高い値動きのパターン、利益が出る確率の高い売買ルールを見つけ出し、アルゴリズム化しておくことが必要となる。

自動売買システムの表裏

 もちろん、カブロボは決して万能ではない。相場は様々な投資家心理によって形成され、理論どおりには動いてくれない。株価チャート分析における「ダマシ」(株価がチャートの法則から外れた動きをすること)も日常茶飯事だ。

 1998年には米国でロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)という伝説のヘッジファンドが破綻した。金融工学を駆使したアルゴリズム取引でリスクにリスクを積み重ねた末の“決壊”であった。LTCMは著名なトレーダーやノーベル経済学賞受賞者など、当時の金融界のスーパースターが93年に設立したヘッジファンドである。こうしたヘッジファンドでも破綻するのだから、テクノロジーをベースにした自動売買システムは決して完全ではないのだ。

 ただし、感情的な投資行動を避ける――という点で、コンピューターによる自動売買は有効な手段である。株式投資において最も厄介なのは、人間の欲望。「10%上昇したら売る」と決めていても、実際に10%上昇すると「もう少し値上がりしそうだ」と欲を出し、結果的に売り時を逃してしまうようなことは、投資家なら誰でも経験しているだろう。自動売 買システムではそんな動揺はおこらず、「あらかじめ決めたアルゴリズムに従って着々と売買を重ねる」ことができる。もちろん、アルゴリズムの絶えざる改善は必須であるが。

 夢の自動売買システムを追い求める投資家の探求が終わることはない。自動売買システムの開発を下支えするIT技術の進歩も加速している。カブロボは、間違いなく進化していく。

図2●自動売買プログラム「カブロボ」
図2●自動売買プログラム「カブロボ」

犬丸 正寛(いぬまる まさひろ)氏
日本インタビュ新聞社 代表取締役社長
1944年生まれ。大阪商業大学商経学部卒業後、大手証券専門新聞社に入社。取締役編集局長・取締役IR局長を経て、99年に日本インタビュ新聞社設立。あらゆるメディアを活用した企業と投資家を結ぶIR支援事業「Media-IR」を展開。メディアなどに執筆するかたわら、経済・株式評論家としても活躍中