岩井 孝夫
佐藤 三智子

 本連載は,中堅企業の情報システム担当者の方,特に情報技術の専門家ではない担当者の方を思い描きながら,情報化で失敗して「動かないコンピュータ」状態に陥ることを防ぐポイントを述べるものである。情報化の局面を,(1) 課題設定・新システム構想企画段階,(2) 情報システム設計・構築段階,(3) 新システム運用・維持段階の三つに分け,各局面ごとに想定される問題点を列挙し,解決策を提示していきたい。

 多くの中堅企業は専任のシステム担当者を今でも置いていないであろうし,仮に置いていても情報技術の専門家であることは期待できない。しかし,情報技術の世界が大きく変化した結果,専門家ではなくても経営に役立つシステムを企画し,構築・運用することは可能になった。

 本連載では,「まずこれをして,その次はこれをせよ」という手順の解説ではなく,情報化のさまざまな局面で出てくるであろう「問題の候補生たち」を指摘し,そうした問題を解決する具体策を列挙していく。できる限り,実在の中堅企業で起こったエピソードを盛り込みたいと考えている。

 読者の方々はそれぞれ置かれている立場も違い,情報システムへのかかわり方も違うであろう。したがって,本連載で指摘していく問題点について,ご自分の「思い当たる節」を探してお読みいただきたい。筆者なりの解決策の中から一つでも二つでも読者の手助けとなるポイントを汲み取っていただければ幸いである。

動かないコンピュータの原因

 日経コンピュータの連載コラムに「動かないコンピュータ」がある。1980年代から90年代にかけてこのコラムに掲載された情報化の失敗事例から,その原因を分析してみた(表1)。87 年~89年に掲載された事例のうち26件と,95年~96年に掲載された事例のうち21件から,それぞれ失敗原因を複数抽出した。表1の数字は全事例に対する,それぞれの原因に該当した事例数の比率である。87年~89年の7割強,95年~96年の約4割が中堅企業の事例である。大企業の事例も含まれているが,情報化の失敗原因として企業規模にかかわらず共通する点も多いので,そのまま比較・分析した。

表1 「動かないコンピュータ」の失敗原因
順位 1987 ~89年の失敗事例(26例) 95~96 年の失敗事例(21例)
1
(77%)要求分析が不十分 (62%)要求分析が不十分
2
(65%)ベンダー(業者)の支援が不的確 (57%)パッケージ・ソフトの不具合
3
(58%)処理能力の見積もりの不備 (24%)システム障害対策が不備(通信系)
4
(35%)ユーザー体制が不備 (24%)ユーザー体制が不備
5
(35%)システム品質の検証が不十分 (19%)開発プロジェクト管理が弱い
6
(35%)運用後のユーザー指導に手抜かり (19%)ベンダー(業者)の支援が不的確
7
(23%)業務改善の内容検討が不十分 (14%)アップグレード作業の見積もり相違
8
(23%)マニュアル類の不備 (10%)パッケージの内容理解不足
9
(19%)開発プロジェクト管理が弱い (10%)顧客担当者の中途交代
10
( 8%)開発計画が不十分 ( 5%)ソフトの不具合が誘発した運用ミス
11
( 4%)顧客担当者の業務知識不足 ( 5%)顧客担当者の業務知識不足
12
( 4%)運用設計が不十分 ( 5%)ディーラの倒産