インターネットを介して見知らぬ個人同士が条件を提示し合い、小口資金の貸し借りを成立させる―。そんな融資を仲介する新ビジネスが米国で生まれている。アジアに古くからある互助組織「講」からヒントを得て、ネット時代に登場した新金融ビジネスモデルを紹介する。

 インターネットを介して個人同士のお金の貸し借りを仲介する新サービスが米国で話題となっている。ルーツはアジアの「講」の仕組みだという。

 ネットオークションのようなシステムを使って、融資を希望する借り手が、資金の使用目的、返済目標、支払い金利などを詳細に述べる。この申し立てに応えられると考えた貸し手が、金利を競争条件として応札する。双方の条件が見合えば融資成立(図1参照)。

図1●米プロスパーのビジネスモデル
図1●米プロスパーのビジネスモデル
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 インターネットを利用することで、地理的にも質的にも今までにない広がりを持つことが可能となった。米プロスパー(Prosper)は、その代表例。消費者間金融の場を提供する新しいビジネスモデルであり、プロスパーでは、同システムを特許申請中だ。

 プロスパーのサービスには、銀行や消費者金融会社は介在しない。プロスパーのサーバーに借り手・貸し手となる利用顧客が直接接続し、パソコン同士で情報を送受信する。こうした方式は「ピア・ツー・ピア(P2P)」と呼ばれる。

 プロスパーは顧客同士の接続管理と顧客データベースの管理を行い、借り手、貸し手双方から手数料を徴収する。

 金融業に限りなく近い事業形態であるため、当然各種の規制を受けている。州レベルでは、金利の上限設定や情報開示の義務が条件に、また連邦レベルでも融資に(人種、性別、年収などでの)差別をしないという法令などの遵守を課されており、連邦行政当局の管轄下に置かれている。一部の州では特殊免許の取得などが営業に必須条件とされている。営業開始までに、関係当局に入念な根回しがなされたという。

プロスパーのHP
プロスパーのHP

ネット個人間金融の仕組み

 プロスパーの借り手は、職種、年収など様々の理由で普通銀行から融資を受けにくい人々だ。借り手は最低50ドルから最大2万5000ドルまでの融資を申し込める。さらに自分で支払える最高金利を8%、12%などと設定する。返済期限は3年で、借り手は毎月、金利と元本を返済するシステムだ。3 年以内であれば、期限前の償還も罰則金をとられることなく可能だ。

 借り手が貸し手側を“その気にさせる”材料は、自己紹介的なヒューマンストーリー。シングルマザーが子どもの養育費から起業家がスタートアップに必要な当座の運転資金まで、必要とする理由を切々と説明するのが特徴だ。

 もちろん、情に訴えるのがすべてではない。プロスパーでは借り手を「信用格付け」「収入対債務レシオ」「焦げ付き率」などで評価、リスクを8段階に分類している。

 さらに自分と共通項のある借り手グループ(職種、教育バックグラウンド、宗教理念、趣味など)の一員になる方法もある。グループの中では一人が焦げ付けば、グループとしての信用力が落ちるため、各人が約束どおりの支払いを心がけるといった効果が生じる。そのため、グループのメンバーになると、同じ条件の単独の借り手よりは信用度が高いとみなされる。

 融資側も個人あるいは、貸し手側グループとして応札する。貸し手グループに入れば、一人頭は数百ドルでも、まとまった金額が集まる。ちょっとした小遣い稼ぎ目的で融資団に参入できるという手軽さが実現できるわけだ。貸し手は、借り手の信用力や支払条件を見て金利を設定し、数日間から1週間の応札期間中に、最も低い金利を提示した融資者が落札される格好だ。

 プロスパーは入札が終了し、貸し借りが成立した時点で、借り手側から融資総額の1%を手数料として徴収、貸し手側にも年率0.5 %を手数料として課し、これを収入源とする。

英国にも同様のサービスが

 プロスパーで成立した融資額は、これまでに2500万ドル。同社への登録会員数は10万人に上る。焦げ付き率も極めて低く、0.05 %にとどまっている。

 米国で消費者のクレジットカード残高やその他金融機関への負債は2兆ドルと推定されている。この新しい融資システムに対する潜在需要は十分高いと見た著名なベンチャーキャピタル、アクセル・パートナーズ(Accel Partners)、ベンチマーク・キャピタル(Benchmark Capital)、フィデリティ・ベンチャーズ(Fidelity Ventures)などが2000万ドルを投資した。

 プロスパーは米カリフォルニア州を拠点に、2006年2月に創業したばかりだ。創業者は、ネット上に個人向け不動産ローン取引市場を作り出したEローン(E-Loan)を立ち上げたクリス・ラーセン氏らだ。Eローンは、ネット上で個人がローンを申し込むと銀行など金融機関が融資基準を提示、気に入った条件を提示した相手と融資契約を結べる仕組み。1997年に創業、99年に新規株式公開、05年に3億ドルで売却された。

 英国にも同様のビジネスを展開するゾーパ(Zopa)がある。Zopaは05年3月に創業、小口消費者金融を手がけるネットサービスとしては先駆けだが、借り手側の収入を年収2万5000ポンド以上と制限するなど、やや高額所得者向けとなっている。

河原 玉(かわはら たま)
(ニューヨーク特約記者)
本誌ニューヨーク特約記者。ニューヨークを拠点に90年代前半から経済・産業関係の取材・執筆を続けている。消費・流通産業分野を得意とする