Q 1カ月前,夜に突然動悸がして息苦しくなり,このまま意識を失うのではないかという強い不安を感じました。救急車で病院に行きましたが検査結果は異常なし。その後3回発作がありましたが,毎回病院では異常はないと言われます。いつ発作が起こるか分からないので不安です。 (28歳,女,SE)

 明らかに「パニック障害」と考えられます。

 パニック障害は,心身の過労を背景として突然発現することが多い病気です。他の業界と比べて仕事量が多く,心労も多いITエンジニアにとっては,気を付けなければならない病気です。また,パニック障害は誰にでも起こりうる身近な病気であるにもかかわらず,あまり知られていません。このため,病院でも異常なしと診断されることが多いのです。パニック障害に詳しい心療内科もしくは総合病院の精神科での受診を強く勧めます。

 発作があり,次の発作が起こることへの不安(これを「予期不安」と言います)があることが,パニック障害の特徴です。病状がさらに悪化すると,この不安のために1人で外出することができなくなります。もちろん電車にも乗れません。

パニック発作で現れる13の症状
パニック発作で現れる13の症状

 強い恐怖または不安を感じながら,表に示した13の症状のうち4つ以上が突然発現して10分以内にその頂点に達すると,パニック障害と判断することができます。

 その発現メカニズムはまだ詳しく分かっていませんが,パニック障害に見られる予期不安は心理的な現象と考えられているので,大きな分類としては「心因性の病気」(心に原因がある病気)だとされています。

 しかし,最初のパニック発作がどのような背景で起こったのかを調べても,はっきりとした心理的要因が見つからない例が多いのも事実です。心身の疲労はあっても,「何かに悩んでいた」とか,「心理的に追い込まれていた」というような原因は出てきません。ですから,現在ではパニック障害を「脳の過敏性」による病気とする考え方が広く支持されるようになってきました。

 パニック障害の治療の中心は薬物療法です。抗うつ薬,特に「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」が有効とされています。抗不安薬の中にも有効なものがあり,両者を併用する場合もあります。

 薬によって,パニック発作の頻度が減りその程度も軽くなってきます。同時に,「パニック発作自体はつらいものではあるが,命にかかわるものではない」ことの理解が進むと,病気は快方に向かいます。薬物療法の効果が十分でない場合には,心理療法の1つである「認知行動療法」を行います。とにかく,一刻も早く専門医の受診が必要です。

河野慶三 富士ゼロックス全社産業医
1970年,名古屋大学医学部卒。厚生省,熊本県公害部首席医療審議員,労働省主任中央じん肺診査医,産業医科大学助教授,自治医科大学助教授を経て, 94年に富士ゼロックス本社産業医に就任。98年から全社産業医。著書に「働く人の健康管理」(労働新聞社)など。医学博士