JTB 常務取締役 総合企画・CIO・広報担当(インタビュー当時は総合企画部長・情報システム担当)志賀 典人氏

 IT部門と利用部門の“距離”をもっと縮めなければならない。そういった思いから、昨年社内に「IT戦略委員会」を立ち上げた。今年4月に持ち株会社に移行するが、IT戦略委員会は存続させる。この委員会で、システム子会社「JTB情報システム(JSS)」の社長、事業会社のCIO、営業部門の責任者などを毎月集めて、情報化戦略をまとめたり、情報化投資の是非を議論したりする。こうした場を通じて、情報化は全社的な取り組みであるという意識をもっと浸透させたい。

 当社は、情報化施策の重要さについては、相当高いレベルで意識を共有できているとは思うが、まだ十分ではない。利用部門には、「システム構築はIT部門の仕事だ」という考えが根強く残っている。システム担当者が、利用部門の担当者のニーズを聞いて、何の疑いもなく、その通りにシステムを作る。このようにIT部門が利用部門の“下請け”に回っているようなシステム構築プロジェクトは少なくなかった。その結果、ビジネスに貢献する優れたシステムを構築できた一方で、利用頻度が低くなったり、過剰に投資してしまったこともある。

 利用部門とIT部門が対等に意見を出し合い、経営や事業に貢献するシステムを開発するには、「システムは全社員で作るものだ」との風土が不可欠だ。そこで、利用部門にシステム構築に対する当事者意識を持ってもらうため、プロジェクト・オーナー制を導入しようと考えている。これまではシステム構築プロジェクトやシステム導入後の結果などに対する責任の所在に、あいまいな部分があった。

 プロジェクト・オーナー制を導入して、事業会社の役員やマネジャ・クラスに、情報化プロジェクトの予算やスケジュールに関する責任を負わせる。投資額とシステムの性格に応じて、誰に責任を負わせるかとのルールもほぼ決めた。

 利用部門側が真剣にシステム作りに関与しなければ、システム構築プロジェクトが失敗するリスクは高まる。当社が過去に体験したシステム構築プロジェクトの失敗を分析すると、たいていの場合、利用部門とIT部門のコミュニケーションが不十分であることが分かった。

 プロジェクト・オーナー制度がうまく機能すれば、利用部門の情報化プロジェクトへの参加意識が高まる。それがプロジェクト失敗のリスクを減らすことにつながる。さらにシステム稼働後も、受益者負担を徹底して、コスト意識を根付かせる。これで、新しいシステムの投資効果を上げようとの機運を高めていく。(談)

写真=木村 輝