最近話題のPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)とは、一体どんな役割を果たすべき組織なのか。この点を見失うと、あまりに多くの作業に忙殺され、PMOは簡単に機能不全に陥ってしまうだろう。本連載は、管理プロセスの導入、スタッフィング、管理工数の扱いといったPMOの実務に関する知見を紹介していく。

高橋信也
マネジメントソリューションズ 代表取締役

 PMOというと、「プロジェクトマネジメントオフィス」または「プログラムマネジメントオフィス」を指します。プロジェクトとはルーティンワークではなく、目的と期限がある一つの仕事を意味し、複数のチームが集まって一つのプロジェクトを構成します。いずれにせよ、PMOという言葉がしばしば使われるようになってきたものの、一体何をすればいいかとなると、なかなか答えが出せません。

 本連載は、管理プロセスの導入、スタッフィング、管理工数の扱いといったPMOの実務に関する知見をお伝えしていくものですが、まず最初に、PMOの役割を考えてみたいと思います。以下では、PMOをプロジェクトマネジメントオフィスの略語として使います。

庶務的な仕事にばかり手をかけていられない

 PMOの仕事として、事務的なものがあります。とりわけプロジェクトの開始直後は、そうした仕事が多く、あえてPMOと呼ばず、事務局と言っている場合もあります。事務的な仕事といっても幅広く、プロジェクトメンバーの入出管理やセキュリティーカードの発行手続き、パソコンの手配といった庶務的な仕事から、予算の立案やリソース配分の決定、体制図の作成、役割分担の調整などプロジェクトの目的や全体像を理解しなくてはこなせない仕事まであります。

 以上の仕事をなんとかこなし、プロジェクトの実行段階に入ると、今度は進捗の把握や課題の取りまとめ、上位管理者向けのレポート作成、場合によってはリスク検討会議のファシリテーションまで行ったりします。どれだけの人がこれほど幅広いスキルを持ち、PMOの仕事をこなしていけるのでしょうか。PMOに配属されたスタッフの方々は、「自分はどのようにプロジェクトに貢献すればいいのか」「どうすればPMOのパフォーマンスを上げることができるのか」と苦慮されていることが多いと思います。

 PMOに配属されるメンバーの人数と使える時間は有限ですから、数多いPMOの仕事に優先順位を付けて、社外に委託できるものは委託する必要があります。例えば、入出管理やセキュリティーカードの発行、パソコン手配などの庶務的な仕事は、派遣社員の方にお願いし、プロジェクトに新規メンバーが入るたびにオリエンテーションをしてもらったりできるでしょう。

 では、会議のファシリテーション、つまり会議を招集し、会議室の予約を取り、必要な資料を取りまとめてコピーを作成するといった準備をするスタッフはどうなのでしょう。ここでも仕事の重要度と難易度を吟味する必要があります。定例の進捗会議など、会議の目的や出席者がはっきりしており、所定の資料を用意するだけでよい場合は、それこそ庶務的な仕事になるでしょう。といっても出席者が多い場合、資料のコピーだけでも大変です。

会議によっては、高いファシリテーション・スキルが必要

 定例とはいえ、プロジェクトメンバーが50人以上いる規模の進捗会議になると、司会進行も議事録作成も結構大変です。議事録の執筆、レビュー、出席者への確認メール、プロジェクト内での共有メールなどを含めると、議事録関連だけでも予想以上に作業時間が取られることが多いものです。これは庶務的な仕事と言えません。

 私の経験によると、メンバー数が50を超えるプロジェクトでは定例会議へ向けた準備やその後の対応に1日以上の工数を使います。この工数を、通常はPMOのスタッフや派遣社員で分担するわけですが、慣れてくると、会議中は司会進行をやりつつ、プロジェクタで資料を映写し、並行してパソコンに議事録を打ち込む、といった作業を一人でこなすことができます。とはいえ、議論を聞きながら議事録を取りつつ、時間配分も見ているので、かなりの集中力を要しますし、あまりお勧めできません。といって、そのような会議のファシリテーションを月単価何100万円もするコンサルタントを雇ってやらせているプロジェクトをしばしば見ますが、コストパフォーマンス的にいかがなものでしょうか?

 プロジェクトのステークホルダーや、プロジェクトマネジャが出席するような会議のファシリテーションをするには、さらに高いスキルが求められます。チームリーダーをどこまで呼ぶ必要があるのか、さらにチームメンバーまで呼ぶ必要があるのか否か、といったことは、会議の目的や具体的な内容、プロジェクトの状況を理解していないと判断できないからです。業務要件の検討会やプロジェクトスコープに関わる検討会議は特にそうです。

 PMOは庶務的な仕事から高度な仕事まで包含しているわけですが、あくまでも縁の下の力持ちであり、黒子だと思います。ただし、黒子ゆえにそのパフォーマンスを見せにくいという課題があります。会議のファシリテーションのようにやたらと時間を食うわりに、そのことが案外理解されません。

PMOが明確にすべきもの

 実際のプロジェクトをこなしていくチームには、いずれも明確な成果物があります。情報システムの開発であれば、業務フロー図や機能設計書、コンピュータープログラムといった具合です。これに対し、PMOの場合、成果物といっても、管理用のそれですから、あってもなくても良いように思われることもしばしばです。プロジェクトを始める前に、目的とやり方を明記した「プロジェクト憲章」を作りましょう、と物の本には書いてあります。プロジェクト憲章は、PMOの重要な成果物と言うこともできますが、多くのプロジェクトで作成されていません。

 しかし、私は、明確な成果物を提示し、しかもPMOのパフォーマンスをはっきり示す仕事があると考えています。それは、プロジェクト全体の状況を可視化し、プロジェクトマネジメント上の意思決定を支援することです。進捗定例会議のファシリテーションも可視化の一つです。進捗状況を目に見える形にして、プロジェクトメンバーと共有し、課題を洗い出し、会議を進行させ、プロジェクトマネジャの意思決定に貢献する。これこそが最も重要なPMOの役目でしょう。そのための具体策については次回以降述べていきます。

 さらに「会議体を整理する」こともPMOのパフォーマンスと言えます。様々な会議のコミュニケーションプロセスを明確にし、それぞれの会議の目的、出席メンバーの条件をまとめ、整理した結果に基づき、複数の会議を一つにまとめたり、逆に新しいメンバーの会議を新設したりするのです。

 基本方針が不明確なプロジェクトではやたらと会議が多く開催され、時間ばかりとられることが多いものです。会議のための会議もあれば、現場が勝手に開いているプロジェクトから見ると非公式な会議も発生します。中には、立ち話程度の話し合いにもかかわらずプロジェクトの意思決定に大きな影響を与えるものも出てきます。

 もちろん公式の会議だけでプロジェクト全体を調整できる訳ではありませんし、いわゆるタバコ部屋の意思決定もあるかと思います。それでも、プロジェクトを推進していく上で、公式な会議は何の目的で開かれるのか、会議結果のフィードバックはどのように行うのか、といった点をプロジェクトメンバー全員が理解していないと無駄な会議がどんどん増えていきます。会議の整理は、PMOが切り込む重要な領域です。次回は、プロジェクトの可視化に必要な管理プロセスの導入について考えます。


高橋信也(たかはししんや)

 1972年福岡生まれ。修猷館高校を卒業した後、上京。上智大学経済学部卒。ゼミは組織論、日本的経営の研究。大学卒業後、アンダーセン コンサルティング(現アクセンチュア)入社。CやC++によるプログラミングから業務設計まで幅広い工程を経験した後、2001年よりキャップジェミニのマネジャとして経営管理・業績管理のコンサルティングプロジェクトに携わる。

 コンサルタントとしての外部の目からだけではなく、内部の目でマネジメントを経験したいとの思いから、SONY Global Solutionsへ入社。その当時、最年少プロジェクトマネジャとなる。グローバルシステム開発プロジェクトのPMOリーダーとして活躍。インドにおけるオフショア開発を経験。

 コンサルテーションから、自社開発のソフトウエア提供、改革実施後のチェンジマネジメントまで、「知恵作りのマネジメント」を支援するマネジメントソリューションズを設立し、現在に至る。連絡先は info@mgmtsol.co.jp