「携帯電話自体が業務システムの一部になってきた」。大手携帯電話販売代理店のMSコミュニケーションズで法人営業を担当する藤田裕・法人営業推進部長は,携帯電話の使われ方の変化をこう語る。いまや携帯電話は仕事に不可欠なツール。それも単なる電話として使うだけでなく,営業支援やスケジュール管理などのアプリケーションを携帯電話で活用する企業も多い。さらに無線LAN環境を活用して,携帯電話を内線電話代わりに使うソリューションもここ1~2年で利用され始めている。もはや業務と携帯電話は切り離せなくなっているのだ。

 だが,業務に不可欠になったにもかかわらず,携帯電話の料金は分かりにくい。法人向けの携帯電話料金は,個人向けの料金体系よりもさらに複雑だからだ。今一度使用状況を見直すことで,携帯電話はもっと安く活用できる。

名義をまとめてコスト削減

 携帯電話にかかるコストを引き下げるために,まず企業が取り組み始めたのが携帯電話の名義と携帯電話事業者からの請求窓口の一本化だ。この一本化によって情報漏えい対策も取りやすくなる。

 例えば大手・中堅企業では,各部署や拠点単位でバラバラに携帯電話を導入していることが少なくない。実はこれ自体,携帯電話事業者に余計な通信費用を支払っていることになる。名義と請求窓口を一本化して回線数や支払いをまとめるだけで,月額基本料や通話・通信料が安価になる大口割引サービスがある。

 無論,携帯電話事業者からの請求が本社総務部などに集約されると,ここから各部署に請求を振り分ける手間が発生する。このため,携帯電話販売代理店の各種ASPサービスでは,各部署や拠点に請求を振り分ける機能を提供している(第5回の記事で紹介)。

事業者選択はユーザーに委ねられる

 一括で法人契約する際に問題となるのは,最適な料金プランが社員の数だけ存在すること。ユーザーごとにプランを考えていくと膨大な時間と労力がかかる。そのため,窓口となる携帯電話事業者の営業担当者や携帯電話販売代理店の担当者は,おおよその通話時間などを企業からヒアリングして料金プランを設定。導入後に社員一人ひとりの利用実態に合わせてプランを最適化している。また,ユーザー自身の手で通信費用の最適化ができるように販売代理店各社はASPサービスを用意する。請求先振り分け機能などと併せて,料金プランの最適化シミュレーション機能などを提供している。

 ただし,販売代理店が提供するシミュレーション機能は同一携帯電話事業者内限定だ。利用している携帯電話事業者がNTTドコモなら,NTTドコモの料金プランと割引サービスの組み合わせから最適なものを選び出す。「NTTドコモからKDDIに乗り換えた方が安いですよ」といったアドバイスまではしてくれない。

 事業者間の違いまでを加味したシミュレーションは,「頼まれれば担当者が別途請け負う」(各販売代理店)ものの,基本的に「事業者の選択はユーザーに委ねる」(同)。だからこそ,通信費用を下げるには,まず携帯電話事業者ごとの料金体系の傾向をユーザー企業が理解しておく必要がある。

企業の規模で事業者選びは変わる

 ある販売代理店幹部によると,「超大手はNTTドコモ,中堅はKDDI,ちょっと小さい企業はソフトバンクモバイルといったように,利用する携帯電話事業者は企業の規模で分かれる傾向がある」という。これは事業者の通話エリアや事業者の営業体制なども密接に関連するが,ここでは料金プランに絞って解説しよう。

 携帯電話にかかる費用は,基本となる料金プランと各種割引サービスの組み合わせで決まる。この仕組みは個人契約も法人契約も同じだが,法人契約は,割引サービスの種類が個人用よりも多い。

 割引サービスとは,(1)契約期間,(2)回線数,(3)支払総額に応じ,基本料や通話料を割り引くもの。通信事業者ごとにその構成や重視しているポイントが異なる(図1)。この割引サービスの選び方や組み合わせで,企業が支払う通信費用は大きく変化する。

図1●携帯電話/PHS事業者の法人向け割引サービスの特徴
図1●携帯電話/PHS事業者の法人向け割引サービスの特徴
NTTドコモやKDDIは回線数や支払額の多いユーザーに適している。ソフトバンクモバイルのホワイトプランは自社同士の通話が定額料金(午後9時から午前1時を除く)で,回線数が少ないユーザーにも導入しやすい。
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 NTTドコモとKDDIは(1)(2)(3)のそれぞれに従った割引サービスを用意しているが,以前はその条件には多少の違いがあった。KDDIは,回線数や支払い総額がNTTドコモと同条件の場合,NTTドコモよりも高い割引率を適用するサービスが多かった。だがこの差は埋まりつつある。NTTドコモはこれまで小口の法人向けサービスのラインアップの点でKDDIに出遅れていたが4月26日,「オフィス割引」と呼ぶ新割引サービスを発表(発表資料へ)。2~10回線を同一名義で契約する法人が対象の割引サービスで,KDDIが先行していた小口法人向け割引サービス「法人割」とほぼ同等の内容となっている。

 ソフトバンクモバイルとウィルコムはNTTドコモやKDDIと料金プラン自体が異なり,音声の定額制がベースとなっている。音声定額は,約款上は基本料だけをユーザーに支払ってもらい,同一事業者間の通話(ウィルコムはPHS同士)では通話料を徴収しないサービス。既に割引済みのため,契約期間や回線数などによる減額の余地は少ない。特にソフトバンクモバイルのホワイトプランは,基本料が980円と他事業者よりも安価なため,割引余力はさらに少なくなる。ただし両社とも,音声定額以外の料金プランでは,契約期間と回線数による割引を適用できる。

第1回 企業規模で変わる“最適な”携帯電話事業者 
第2回 法人向け割引サービスの特徴――NTTドコモ,KDDI編 
第3回 法人向け割引サービスの特徴――ソフトバンクモバイル,ウィルコム編 
第4回 月次の支払い総額次第でさらなる大口割引のチャンス 
第5回 販売代理店のASPサービスで管理コストと料金を下げる