本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なりますが、この記事で焦点を当てたプロジェクトマネジメントの本質は今でも変わりません。

プロジェクトは大きく四つの基本ステップを経て進んでいく。プロジェクトの目的を明確に決める「定義」,遂行計画を作る「プラン作成」,実際の遂行である「実施」,終了条件に従ってプロジェクトを終える「終了」である。プロジェクトマネジャは各ステップでなすべきことを実行し,プロジェクトメンバーに適切な情報を提供する必要がある。メンバーは自分の仕事が全体のどの部分にあたり,どんな意味があるのかを知りたいものだからだ。

伊藤 健太郎
アイシンク 代表取締役

 プロジェクトマネジメントというと,何だか非常に硬い感じを受ける方が多いようだ。そもそも,マネジメントと付くだけで拒否反応が起こる方もおられるであろう。最近,やたらとマネジメントが付く言葉が多い上に,マネジメントという言葉が管理を強調している印象を与えるからかもしれない。

 ある人はプロジェクトマネジメントと聞くと,「ムチを持ったプロジェクトマネジャが担当者の仕事ぶりを厳しく監視している」様子を思い浮かべる。また,ある人は,「プロジェクトに関する理論を振りかざしているプロジェクトマネジャ」を想定する。こうした人々からは時折,「プロジェクトマネジメントなんかしなくても,プロジェクトはやれる」という声も出てくる。

 しかし,プロジェクトを効果的に遂行していくには,「本当の意味のマネジメント」が必要である。筆者が意図するマネジメントとは,「管理」という意味合いではなく,manageの本来の意味である「どうにかして成し遂げること」を指す。つまり,「プロジェクトをどうにかして成し遂げる」ことがプロジェクトマネジメントと言える。こうした意味を考えると,「プロジェクト管理」という表現は誤解を招くので本連載では使用しない。

 残念なことに,すべてのプロジェクトが適切にマネジメントされているわけではない。むしろ,プロジェクトが適切にマネジメントされ遂行されているほうが少ないかもしれない。「プロジェクトをマネジメントしてきちんと遂行している」と言うのはプロジェクトマネジャやリーダーだけで,プロジェクトの関係者やメンバーが,「プロジェクトの目的がばく然としていて,進む方向が分からない」と不満を持っている場合も多い。

 プロジェクトの結果が客先に喜ばれ,予算内・納期内で完成すれば,メンバーに不満があってもいいのであろうか。そうではない。メンバーも仕事を楽しみ,生き生きと仕事をしているほうが,そうでない場合よりプロジェクトは成功しやすいと言える。ここまでなんとか成し遂げるのが,真のプロジェクトマネジメントである。

 そのためには,どうしたらいいのだろうか。自分を,ある目的地まで集団を引率していくリーダーであると考えてみよう。その場合,リーダーはまず目的地を明確にする。そして,どのようにして目的地に到達したらよいか,計画を立てるであろう。それから実際に目的地に向けて進んでいく。

 途中で雨が降ったり,車がパンクしたり,予期しないことが起こるかもしれない。そうしたトラブルに対処しながら,リーダーは全員を引っ張っていく。時には激励をしたり,叱咤することもあるだろう。全員が目的地に到達したことを確認して,終了になる。

 この場合,リーダーに必要とされるのは,車のパンクの修理といった個別の技術ではなく,全体のステップを大きな視点から考えて,必要な準備をしたり指示を出したり,危険を避けたりすることである。

 プロジェクトを成功に向けてマネジメントしていく場合もまったく同様である。プロジェクトを開始から終了まで全体のステップから眺めて,プロジェクトがどのように進んでいくのか,どう進めていくのかをまず考える。すなわち,プロジェクトの基本的なステップを理解することが先決である。

 プロジェクトマネジャがプロジェクト全体のステップを理解し,プロジェクトのメンバーに正しく説明できれば,メンバーは自分の行動を,最終ゴールに向けてうまくコントロールできるようになる。そして,プロジェクトの遂行を楽しめるようになる。だれもが自分のしている仕事が全体のどの部分にあたり,どのような意味があるのかを知りたいものである。

四つのステップを理解する

 プロジェクトマネジャがプロジェクトを効果的に遂行するためには,プロジェクトマネジメントに関する知識が必要であるが,それらをバラバラで理解するべきではない。最も大切なことは全体の理解である。全体を理解しておくことで,次にどのような方向にプロジェクトを進めていったらよいのかが自ら分かるし,そうなって初めてメンバーにも方向を説明できるようになる。プロジェクトの時間的推移に沿った形で,プロジェクトマネジメントの知識を整理・理解しておくことが重要な所以である。