岩城:今回は777の福田さんに対談のパートナーをお願いしました。福田さん、こんにちは。福田さんはカンヌのサイバーライオン金賞を日本人として始めて受賞され、その後は審査員などもされたことがあり、世界のWebデザインに詳しくていらっしゃいますが、最近一番気に入っている作品は何ですか?

福田氏
福田氏

福田:ユニクロUSAのオフィシャルサイト。これ、あの有名な中村勇吾さんがつくっているのですが、yugoファンとしてではなく、シンプルに1ウェブクリエーターとしてすごいと思ってます。Yugoさんの仕事のすごいところは、その仕事の目的軸をぜったいにずらさないこと。意味もなく、ただすごいでしょとか、面白いでしょとか、多分そういうことにはYugoさんはあんまり興味がなくて、その仕事の目的をきちんと理解した上で、その目的に即したなかで最もシャープで驚きある答えをぶつけてくる。

 ユニクロNYが店舗展開で実現している、洋服をグラフィカルに標本のように見せているその考え方を、ウェブはウェブなりの視点でエディットしているんです。しかも真似のできない技術で。目的軸がぶれてないから、ブランド&商品がすごく新鮮に見える。特に、ユニクロになじみのないアメリカ人には、相当に新鮮なインパクトをもって伝わったのではないでしょうか。

岩城:私も拝見してみましたが、相変わらず凄いなぁ! とても明快で商品が引き立ちますね。Webがグローバルメディアであることも実感します。ちなみに中村勇吾さんは、JAAのWeb広告研究会が主催する「Webクリエーション・アウォードの第1回(2003年)を受賞されています。インタビュー記事がこちらにあります。

 また、記事中にある、MITの前田ジョンさんのサイトはこちらです。

 ところで、福田さんは、もともとはTV-CFのプランナーをされていたわけですが、現在はWebのクリエーターとして活躍されていますね。そのあたりの経緯や現在のお仕事などについて、自己紹介を兼ねて読者の皆さんに教えていただけますか。

福田:そうですね。もともと博報堂でCMの現場におりました。CMをつくることそのものはずっと好きだったのですが、95年に博報堂電脳体という組織が立ち上がることになり、以前からデジタル領域のクリエイティブにも興味をもっていた自分は、どうしてもそっちがやりたくなって自ら手をあげて参加したのです。

 そのころの自分は、インターネットすらよく理解しておらず、まわりのスタッフが話していることに必死で耳を傾けながら知見を深める毎日でした。「お年玉くじ付き電信年賀状」「デスクトップ伝言ツールぺたろう」。みんなで企画することから、その事業目論見書の作成、クリエイティブインターフェースの開発、コンテンツ制作、得意先へのセールス、広告制作、ユーザー対応まで、一貫してすべてを経験したことがその後の自分のキャリアのもとになっています。

岩城:Webが今のように大きく発展する前から関わられて、たいへん貴重な経験をされましたね。福田さんがこれまで携わってきた、CMなどのヴィジュアルコミュニケーションの世界は百万言を費やしても伝わらないことを一目で伝えるという、ある意味ではたいへん高度なことを実現してきたと思いますが、そういう意味からは、テキストベースで始まったWebの世界とは対極にあったと思います。

 TV-CFとWebのプランニングでは、どういうところが異なっていて、どういうところが似ているのでしょうか。具体的に教えていただけますか。

福田:TVとウェブのプランニングは確かにいろんな意味で違っています。でも、伝えたいことが何なのか。それをどんな作法で伝えるのか。その本質は変わらないと思っています。CMを作っている時代も、自分が問われていたことは「そこにアイデアはあるか」であったと思います。そのアイデアとは、新しい切り口であったり考え方であったりアプローチであったり伝え方であったり‥‥。

 なんとなくオシャレとか、なんとなくカッコイイ広告が機能しないこと、そういう広告を作り続けても長続きしないことは、いつも意識して作っていたように思います。確かにウェブは、映像リッチなものではなかった。でも、そうであることが、逆に、このメディアの体験において、何がフレッシュか、何が人をひきつけるかということに、あらためて対峙する機会を与えてくれたように思います。

 人間のイマジネーションの力ってすごい。とすると、そのターゲットのイマジネーションを刺激するのに、かならずしも映像リッチなものが機能するとは限らない。逆に、不完全であったり、ターゲットの想像の糊代を上手に作ってあるものの方がみんなには魅力的にみえることもある。それは、ゲーム機の進化とも似ていると思います。どんどんハードが進化して映像がきれいになることで得るものもたくさんあるけど、失うものもある。ターゲットのイマジネーションをドライブするためには、映像情報をそぎ落とした手法がささることもあるんですよね。

岩城:なるほど、良くわかりました。演劇などに喩えると、表現する内容が重要なのであって、Webであるか映像であるかは、その舞台が異なるだけだということですね。それでは、Webデザインに限って言うと、これまでにどのように変化してきましたか? 

福田:そうですね。やっぱり技術の変化やインフラの変化とともに、フロントラインは変わってきましたね。カンヌのサイバーライオンがスタートした80年代のまんなかあたりは、ウェブの作法でオーサリングされた美しい商品の見せ方が評価されていた時代。90年代に入ると、フラッシュの登場とともに、マスのイメージとウェブの世界観が共有されるようになってきて、その中でのウェブならではの体験設計が問われ始めた時代。2000年に入ると、情報を拡散させる装置としてのウェブの取り組みがはじまり、05年あたりから、ユーザー参加を前提としたデザイン開発やデータベースと常に連携しながら形を変えていくデザインが模索されるようになってきた。

 最近は、得意先の方々もたくさん勉強していらっしゃって、自分たちが抱えているコミュニケーション課題の内容ごとに、ウェブを使い分け、そのデザインをオーダーする時代に入っていると思います。企業情報的なもの、商品カタログ的なもの、ブランドコンテンツ的なもの、ショッピングサイト、店舗連携を模索するもの、広告キャンペーンとして斬新なもの‥‥。

岩城:Webと一言で言って括りきれないくらい多様化してきましたね。最近では動画やフラッシュなどを使った、かつてはリッチコンテンツといわれたものが当たり前になってきて、企業サイトや販売施策などに面白い試みが多くなってきましたが、最近福田さんが良いと思った目立つ企画を教えていただけますか。

福田:最近めだってきているのは、リアルな体験とネットワークが組合わさった企画ですね。マイクロソフトがX-BOXのソフトのキャンペーンとして展開した「Big Shadow」っていう企画とか、ハインツがお店と連携して展開した「ケチャット・ライブ」って企画とか、ホンダの「Enjoy, Live Drive」っていう企画や、オンラインショップのBEYESがネットと店舗をつないだ「Snow Wishes」っていう企画とか。

 ネットに閉じないこと、ネットの先にリアルが存在することを意識させることで、そのブランドや商品が情報が今までと違う伝わり方で残っていくことを目指すこころみです。
 http://www.imaginative.co.jp/imgntv_script/011/
 http://www.interactive-salaryman.com/pieces/livedrive_j/
 http://www.777interactive.jp/awards/2007/snowwishes/jp/index.html

岩城:私も仕事柄新しい試みを見つけると必ず試してみますが、一頃は凝ってはいても使いにくくて途中で止めてしまったようなものも見受けられましたが、最近はそのあたりもこなれてきたみたいですね。

 今までのデザインとWebデザインが異なるのは機能が含まれていて、ヴィジュアルな内容はもちろん重要ですが、機能やユーザビリティを融合させることが必要になると思いますが、そのあたりについては福田さんはどのようなポリシーをお持ちでしょうか。

福田:そうですね。ユーザビリティのことはいつもたくさん考えます。大切な視点は、つくるサイトの目的によってユーザビリティのあり方も違うはずだということ。より広い層にコミュニケーションしなければならないコーポレートサイトのようなものは、どんなユーザーにも分かりやすくストレスの少ない設計をすべきだと思いますし、よりセグメントされたターゲットに濃くコミュニケーションするものは、そのターゲットの趣向にあわせた大胆な設計も必要になるでしょう。

 また、コーポレートサイトだからよくある設計とデザインでいいという理屈もどうかと思います。ブランディング視点にたてば、企業の個性やイメージはとても大切です。企業の表玄関とも言える場所であるわけですから、分かりやすさをきちんと考えた設計のなかでその会社らしさをきちんと定義し表現できることがプロの仕事だと思います。

岩城:そうですね。TV-CFなどではこだわって個性的な表現をしている企業が、Webサイトになると、とたんに個性が無くなってしまうことは良く見受けますね。私は企業に勤めていた1995年からサイトの制作に携わってきましたが、通信環境や技術の進歩によって、表現的にはなんでもありの時代になってきたことをたいへん喜ばしいことと受け取っています。しかし、一方では、たとえば動画を使うことによってTVと近い表現が可能になったために、Webならではの表現をしようという意気込みが感じられなくなっているようにも思えます。

 言い換えるとクリエーターとして、めまぐるしい技術の変化に惑わされず、Webの本質的な部分を理解して「何を表現するか」という真価が問われてきている時代になったとも思っていますが、福田さんはどのようにお考えですか。

福田: 岩城さんがご指摘の通りだと思います。Webの本質的な部分を理解して「何を表現するか」ですね。これまでネットメディアは回線環境や技術的な都合で、電波媒体や紙媒体に比べて表現力が劣っていることを大目に見てもらいながら、その機能で戦ってきた。ネットメディアの表現力が向上した今、その機能の本質、ウェブでなければできないことの本質に向き合う必要性が高まっているのだと感じます。

 かつて、ウェブデザインがスタートした時代に、いずれ平面系(岩城注:グラフィックデザインなどのことですね)の一線のデザイナーがウェブの世界に入ってきたら、ウェブデザイナーは太刀打ちできるのかという議論もあったと思います。もちろん、一部平面系のデザイン事務所でウェブもやるところが増えてきて、その結果として勢力図も変わってきているかもしれない。でも、第一線でネットクリエイティブを牽引していた層は、今でも引き続き業界をリードしています。

 あらゆるメディアがネットワークされて、それが普通になった時代には、もはやウェブデザイナーという職種そのものの意味がなくなっているかもしれません。でも、引き続き変化の時期であると思われるこの5年は、ネットやプログラムをよく理解するクリエーターの存在する意味は失われないと思いますし、失われない努力を僕たちがしていかなければならないと思っています。

岩城:冒頭の中村勇吾さんも、元は建築のエンジニアですよね。技術面でいうとWeb2.0などということもあり、Ajaxなどで実現できることが大きく広がり、Webのプロデュースというものの概念も急激に変化しています。

 Webが大きく変わったこれからは、TVでもない、かといってこれまでのWebの世界とも異なる全く新しい分野が、新しい人たちによって開けていく予感がしますが、いかがですか?

福田:そうですね。フクダも個人的にわくわくしています。かつて15秒、30秒というパッケージされた中でのクリエイティブを追求していた一人として、長さ的にも機能的にも様々な制約から解放された次の時代の広告映像がどんな形になっていくのか、楽しみなところです。

岩城:もうひとつ、Webが今までのクリエーションの分野に投げかけた課題はいわゆるCGMであると思います。ブログやメルマガやもちろん、YOUTUBEなどの動画投稿サイトにもアマチュアの作品が多くあります。

 もちろん厳密に見ればプロの作品とはレベルが違いますが、中には視点が新鮮な作品があって驚かされます。アマチュアの方がいろいろな制約やしきたりに捕らわれない分、自由な表現ができるという面もあるのでしょうね。

 良い悪いは別として、そのようにプロアマの垣根が低くなってきた時代ですから、プロも安閑とはしていられないと思います。そういう観点から、これからWebクリエーターを目指す皆さんにアドバイスをいただけますか。

福田:そうですね。面白い素人さんはいっぱいいますからね。そういう時代に入っていったときにより重要になるのは、広告の作り手がよりしたたかに、自分たちが伝えるべき表現の核をイメージすることと、そのクオリティ管理をより厳しく追及することだと思います。

 どんなに優秀な素人さんが増えていっても、100%そのクリエイティブを素人さんにゆだねてしまう仕事は決してうまくいかないと思います。素人さんもそこまで委ねられてしまうと、逆に窮屈になってしまうはずですし、行き先の見えない企画はただただ無軌道に脱線を繰り返すだけのつまらないものになってしまうはずです。ルールの分からないゲームはどんなに新しくても参加したくならない。素人さんたちも自分たちが楽しくかかわれる面白くて新しい「ゲームのルール」を求めているのだと思います。

 そのためにも、見本となるクリエイティブの質がみんなのイマジネーションをドライブする優れたものである必要がありますし、どんなクリエイティブリテラシーの人が参加しても面白いものが生み出されたと感じられる優れた企画フレームがプロによって作られていく必要があるのだと思います。

岩城:クリエーションの世界には終りがないですね。福田さん、ありがとうございました。

福田:こちらこそ、ありがとうございました。

福田 敏也(ふくだ としや)
トリプルセブン・インタラクティブ 代表取締役
武蔵野美術大学非常勤講師
多摩美術大学非常勤講師

1982年、博報堂入社とともに制作局に配属。CMプランナーとして数多くの国内企業のCM制作にたずさわったのち、1995年博報堂電脳体設立とともにネットクリエイティブの世界へ。「お年玉くじつき電子年賀状」「デスクトップ伝言ツール・ペタろう」などのコンテンツ型ネット広告商品を企画開発。1999年からは、クリエイティブディレクターとしてネット広告の前線で活動。2003年独立し、トリプルセブ・インタラクティブをスタート。以降、多種多様な広告主のネットコミュニケーション活動をサポートしている。 カンヌ国際広告祭金賞、NY Oneshow金賞、東京インタラクティブアドアワード金賞など、国内外広告賞受賞多数。多摩美、武蔵美、宣伝会議などで講師をつとめるほか、777塾というインタラクティブクリエイティブの私塾を開くなど、後進の育成に積極的にかかわっている。