3年ほど前、MOT(マネジメント・オブ・テクノロジー)という言葉が日本で取りざたされるようになり、新聞にもしばしば記事が掲載された。しかし、最近ではあまり見かけない。とはいえ、MOTの考えそのものは重要であるし、MOT関連の教育にずっと取り組んでいる大学や企業は存在している。
 MOTは、IT(情報技術)に限った話ではないが、経営の新潮流の一つであるので、本サイトにおいても取り上げていきたい。今回再掲するのは、日経ビジネスEXPRESS(現・日経ビジネスオンライン)というサイトに、「IT企業はMOT(技術経営)を実践しているか?」という題名で、2003年5月12日に掲載したコラムである。本文の冒頭、「最近」と書いているが、これは2003年春を指す。

 最近、新聞などで「MOT(マネジメント・オブ・テクノロジー)」という言葉を見かけるようになった。MOTは、「技術経営」と訳されており、研究開発の成果をうまく事業化に持っていくことを指す。では、ハイテクのシンボルと目されるIT(情報技術)関連企業は、MOTを実践できているのだろうか。
 本題に入る前に、MOTそのものについて触れておきたい。今のところ、日本では主として教育関係の記事にMOTという言葉が登場することが多い。その場合、理工系の学生に対し、MBA(経営学修士)で扱うマネジメント手法を教えることをMOTと呼んでいる。技術に強い理工系の学生がマネジメントを学べば、製品化を成功させたり、技術を基にした新事業を起こしやすくなるという考えだ。

新製品の開発に結びつける工夫

 ただしMOTは、教育に限った言葉ではない。企業内の研究部門や設計部門をうまくマネジメントし、素早く成果を出したり、新製品の開発に結びつける工夫をすることもMOTと呼ぶ。知的財産の管理もMOTの重要な要素である。ユニークな新製品を出し続けている米スリーエムや花王は、MOTに長けた企業と言えるだろう。
 本欄はITや情報化を巡るコラムなので、IT関連企業のMOTについて考えてみる。今回は、IT産業の中で、最も多くの研究者を抱えている米IBMを取り上げる。IBMはざっと言って、基礎研究部門に3000人の研究者を擁している。
 IBMはかつて、情報を記録するリレーショナル・データベース・ソフトや磁気ディスク装置、メモリーとして使われるDRAMと呼ぶ半導体、コンピューターシステムを開発するための言語など、コンピューターの基盤となる技術や製品を次々に開発した。そしてIBMの基礎研究部門の研究者は続々とノーベル賞を受賞した。
 しかし1980年代に業績が悪化するとともに、毎年の特許数は多いものの、IBMが画期的な技術を開発したというニュースは減ってきた。これはIBMだけではなく、大手メーカーに共通する基礎研究の問題でもあった。ピーター・ドラッカー氏は著書の中で、「企業内研究所なるものの考え方そのものが時代遅れとなった。その最大にして最後のものがIBMの研究所だった」と書いている。
 IBMを立て直したと言われているルイス・ガースナー前CEO(最高経営責任者)は、研究部門を活性化し、製品を迅速に出すためにいくつかの手を打った。ガースナー流のMOT術を3点紹介する。