本サイトの『真髄を語る』のコーナーに、三菱東京UFJ銀行の畔柳信雄頭取の寄稿を掲載した。以前、日経ビステックというメディアに寄稿いただいたものを再掲したのである。これと関連して、日経ビジネスEXPRESS(現・日経ビジネスオンライン)というサイトに、畔柳氏について書いたことを思い出した。2004年7月28日に以下のようなコラムを掲載していた。

 「SE(システムエンジニア)こそ本流」。三菱東京UFJ銀行の畔柳信雄頭取はこんな言い回しをする。筆者がこの発言を初めて聞いたのは1997年のことだ。恥ずかしいことについ最近まで、この発言の真意を正しく理解していなかった。
 こう発言した1997年、畔柳氏は情報システム部門を統括する常務を務めていた。その年の5月、東京三菱銀行は銀行業務を処理する情報システムの一本化を実施した。旧三菱銀行と旧東京銀行が使ってきた情報システムを1つに統合したのである。企業統合や合併に伴ういわゆる「システム統合」であり、畔柳氏はその責任者であった。
 当時筆者は東京三菱銀行のシステム統合プロジェクトを取材し、成功事例として記事をまとめた。その時に会った畔柳氏は、大規模なプロジェクトをいかにマネジメントしたかについて詳しく説明してくれた。「現場のシステム担当者たちはどうでしたか」という質問に対し、畔柳氏はこんなふうに回答した。

 「失敗したら大変なので、現場のシステム担当者たちを厳しく統制しなければならない局面がたびたびありました。多少恨まれているかもしれません。しかしある目標を達成するために集中して仕事に取り組む経験をすることは極めて重要です。しかもSEの仕事こそが銀行の中で本流なのだから、システム統合のようなプロジェクトに取り組めたことは幸せだよと、担当者たちに伝えています」

部下の士気を維持するための発言と思ったが…

 確かに銀行において情報システムは要である。情報システムがないと銀行業務を推進することはもはやできない。とはいえシステム開発を手がけるSEが「本流」とまで言い切った経営者には初めてお目にかかった。そこで記事を作る時には「SEこそが本流」という発言を大きく取り上げた。多数のSEが読む日経コンピュータという雑誌に掲載したので、読者からは好評であった。
 しかし筆者は当時、畔柳氏の発言をシステム担当者に向けて担当役員が送ったエールと受け取った。部下の士気を維持するための発言と思ったのである。
 システム部門を取り巻く状況については本欄で何回も書いた。残念なことに、企業の中における情報システム部門は「SEやプログラマーが集まっている特別な組織」と見られがちだ。つまり傍流である。システム担当者が使う言葉は特殊で、なかなか部門外の人から理解されにくい。しかもシステム部門は製品を作るわけでもないし、営業をするわけでもない。カネを稼がないにもかかわらず、情報化投資と称しカネはふんだんに使うため、何かというと矢面に立たされる。
 システム担当者たちはこうした状況下でシステム統合や開発プロジェクトを進めていかざるを得ない。畔柳氏はシステム担当役員として、部下に「君たちの仕事は傍流ではない」と言いたかったのであろう。筆者はこう理解していたわけだが、実はこれは早のみ込みで、畔柳氏の真意は別のところにあったのである。