情報システムを自分専用に作ろうとすると相当な金がかかる。それでは数社が集まって一つのシステムを作り、各社が同じシステムを利用したらどうか。4社集まれば開発費は1社で賄う時に比べ、4分の1になるはずだ。経営者にとって非常に嬉しい話である。ところが、そうならないことが案外多い。単独で開発したのと変わらない費用が必要になったり、最悪の場合、システムができあがらないことすらある。
 そうした事例の一つとして、日経ビジネスEXPRESS(現・日経ビジネスオンライン)に、2003月6月23日に公開した『富士通の地銀システム開発に遅れ、新聞では分からない深層』を再掲する。たまたま富士通の例になってしまったが、他のコンピュータ・メーカーも大同小異の失敗をしている。最近でも、3年前の富士通と同様の理由で、同様の状態に陥っている失敗例がある。3年前の記事を再掲する所以である。


 2003年6月19日付日本経済新聞に、「不安消せぬ銀行システム」と題した大きな記事が出た。地方金融機関の情報システム共同化計画に遅れが目立つことを報じたものだ。ただし、その記事には重要な事実が書かれていなかった。富士通が開発した銀行向けソフト製品「プロバンク」の契約解消や稼動延期が相次いでいる原因である。
 2003年5月、十八銀行、佐賀銀行、筑邦銀行は富士通との契約を打ち切った。3行は、プロバンクを使ってシステムを共同化する計画だった。日経新聞は、3行がプロバンクの採用を止めたことは報じているが、その理由を明確に書いていない。
 日経新聞には、プロバンクの中で規定された標準的な業務の流れと、3行の業務の流れが合わず、3行が富士通に「お構いなしで(ソフトを修正する)注文を続け、収拾がつかなくなった」と書かれている。
 情報システムは、企業が業務を進めるために必要な情報を扱う。このため、業務の流れに合ったシステムを開発しなければならない。一から開発せず、プロバンクのような出来合いのソフトを使う場合は、自社の業務に合うように、ソフトを修正する必要がある。
 ただし、あまりソフトを修正すると、何のために出来合いのソフトを選んだのか分からなくなる。時には、業務方法を見直して、ソフトに合わせることも求められる。しかし日経新聞によれば、3行は業務を変えず、ひたすらプロバンクのソフトを直そうとしたという。
 3行が富士通にそれなりに注文を出したことも事実である。そして富士通のプロバンク戦略は確かに収拾がつかなくなっている。ただし3行が注文をつけたことと、収拾がつかなくなったことの間に因果関係はほとんどない。事実は、3行より先にプロバンクを利用しようとした東邦銀行において、富士通の開発作業が大きく遅れたのである。

最初の利用行向け開発が難航

 プロバンクを地方銀行に売り込もうとした富士通のシナリオは次のようなものであった。まず、東邦銀行向けにプロバンクのソフトを完成させ、それから十八銀行など3行向け共同システムをプロバンクで開発する計画だった。つまり東邦銀行や十八銀行は、プロバンクの構想を評価して、採用を決めたのである。
 ところが、東邦銀行向けにプロバンクを作り上げる開発作業が難航した。開発の遅れを取り戻すために、富士通はプロバンクの採用を表明していた他行に送り込んでいたエンジニアを集め、東邦銀行の開発に投入していった。それでもスケジュールは大幅に遅れ、東邦銀行はプロバンクを使った新システムを稼働させる時期を、当初予定の2003年1月から2003年9月に延期すると発表した。
 このように富士通は、十八銀行など3行向けの仕事をしている場合ではなかったのである。実際、富士通は十八銀行をはじめとするプロバンクの採用を決めた各行に対し、システムを動かす時期を2年ほど遅らせてほしいと要請していた。
 当初はこれを了承した十八銀行であったが、2年も遅らせるとなると、現行のシステムの延命に投資しなければならない。いったん延命措置をしたシステムを捨てて、プロバンクを使う新システムに乗り換えるのでは投資効率が悪すぎるとみて、プロバンクの採用をあきらめた。