―1月からの試験導入における投資対効果を教えてほしい。

 ICタグを導入したメリットは、大きく三つある。品切れをなくすことにより顧客満足度が向上することと、売り上げが向上すること、さらに、棚卸しなど従業員の商品管理の手間が減ることである。売り上げの増加などの具体的な数字は言えないが、42店舗での実験を実システムにし、店舗と商品種類の拡大を決断できるだけの結果が得られた。

 なお42店舗の実験では、ICタグは本来よりもコストがかかっている。実は6種類の商品には、販売する店舗にかかわらず、全個品にICタグを取り付けた。42店舗で衣料品全体の約45%を売り上げており、ICタグ付きとICタグなしの商品を作って店舗ごとに仕分けることが困難だったからだ。42店舗以外の店舗でも、ICタグ付きの商品が売られたが、ICタグは一度も読み取られずまったく活用されていない。120店舗に拡大したあとは、8~9割のICタグが活用されるようになり、投資対効果はさらに高まる。

―商品の種類や価格帯によって、適用の難しさや効果は違ったか。

 効果はほぼ変わらず、同じシステムを適用できることが分かった。店舗の立地などでも変わらない。9ポンド(約2000円)程度の安価なジーンズでも効果があった。

将来は2億個に張り付け

―今後、ICタグの適用はどこまで広がり得るのか。

 M&Sは、年間4億5000万個の衣料品を販売している。そのすべてにICタグを付けることは考えにくい。ICタグを付けてメリットがある衣料品は、サイズの数が多いものである。サイズが10、20、30種類と多数あるほどメリットが大きくなる。サイズが多いと、たまにしか売れないサイズが出てくる。そうしたサイズは1~2着しか在庫を持てず、システム上の在庫が1着ずれるだけで欠品が発生する。ICタグの高い精度によって、こうした欠品を減らせる。

 1サイズしかないネクタイなどにICタグが付くことはないだろう。それでも将来的には、4億5000万個の半分程度にまで広がる可能性がある。

―この1年でシステムを改良した点は?

 現在、6種類の商品はそれぞれ個別に棚卸しする必要がある。同じハンガーに2種類の商品がかかっていると、2回スキャンしなけらばならない。これを1回で済ませられるようにシステムを改良中である。

 ICタグもシールラベル型を開発している。現在はプライスタグとしてぶら下げるタイプの1種類しかないが、シャツなどパッケージに入ったタイプの製品にも適用できるようにする。

―三越や阪急百貨店のように靴に適用するメリットは大きいのでは?

 当社の店舗では、靴もほぼすべての在庫(サイズ)を店頭に出している。当社にとっては、スーツも靴もほぼ同じ商材の位置付けである。



本記事は日経RFIDテクノロジ2007年1月号の記事を基に再編集したものです。コメントを掲載している方の所属や肩書きは掲載当時のものです