英国で最大規模の無線ICタグシステム導入を推進している大手小売業者マークス・アンド・スペンサー(M&S)のRFID導入責任者であるジェームス・スタッフォード氏に、ICタグ導入の現状を聞いた。同氏に2005年秋にインタビューした際には、18カ月間続いた2回目の試験導入を終え、2006年1月末に開始した3回目の試験導入に備えている段階だった。2回目の試験導入は、2004年4月から2005年9月まで9店舗において実施し、70万着のスーツに個品単位でICタグを取り付けた。34種類もあるサイズごとの在庫管理の精度を向上させ、品切れを防ぐことが目的だった。そこで一定の投資対効果は検証できたが、慎重を期して実施した3度目の試験導入の結果はどうなったのか。なおM&Sは、衣料品のほとんどを自社で製造して販売している。

ジェームス・スタッフォード
James Stafford
サプライチェーンの効率化と顧客サービスの向上を目指して、ICタグの導入プログラムをリードしている。新技術の開発と適用では25年以上の経験がある。

―3回目の試験導入の内容は?

 ICタグを張り付ける商品を1種類(スーツ)から6種類に増やし、対象店舗を衣料品の売り上げが多い42カ所と大きく広げた。実験は2006年1月末に始めて夏に終える予定だったが、冬まで延長し、そのまま実システムとすることを決断した。これまで(2006年11月当時)約3500万着の商品にICタグを付けている。ICタグはすべて使い捨てである。

 これを2007年にはさらに拡大した。1月から4月にかけて42店舗を120店舗に拡大する。M&Sの店舗数は約400で、そのうち約200店舗で衣料品を扱っている。そのうちICタグシステムを展開する120店舗が、衣料品全体の8~9割を売り上げている。8月には対象品目も増やす。現在の6種類から12種類程度にする。

―運用が始まった“実システム”の詳細を教えて欲しい。

 システムの仕組みは、2回目の試験導入のときと変わらない。狙いは、サイズごとの品切れをなくすことである。対象の6商品は、紳士用スーツとジャケット、パンツ、婦人用スーツとフォーマルパンツ、ジーンズを含むカジュアルパンツだ。

12カ国30社のサプライヤが対象

 ICタグはプライスタグに挟み込み、ICタグのユニークIDとバーコードの番号をひも付けて登録しておく。それを、サプライヤの縫製工場に渡す(図1)。縫製工場はICタグを意識する必要がなく、システム投資も不要だ。従来のプライスタグと同じように商品に取り付ける。6種類の商品製造を委託しているサプライヤは30社に及び、縫製工場は中国やスリランカなど12カ国に広がっている。

図1 ICタグを使った在庫管理の仕組み 本誌2005年12月号の図を基に作成した。 【クリックすると拡大表示】

 商品は当社の物流センターに到着し、店舗に配送されるが、その間もICタグは読み取らない。店舗に着いて初めてICタグを読み取る。

 従来から運用している在庫管理システムは、店舗への入荷量とPOSレジでの販売量を管理しており、この差分で在庫を把握する。しかし現実には、どうしても誤差が出てくる。これを埋めるのがICタグである。

 店員はハンディ型リーダーを使い、ほとんどが店頭に出ている在庫を、毎日少しずつ棚卸しする。1週間で1巡するため、各商品で見ると1週間ごとに在庫をチェックする。この結果を在庫管理システムに反映することで誤差を正す。この正確な在庫データから、足りなくなった商品をサイズごとに毎日物流センターから配送するため、品切れを減らせる。



本記事は日経RFIDテクノロジ2007年1月号の記事を基に再編集したものです。コメントを掲載している方の所属や肩書きは掲載当時のものです