前回はWeb2.0関連技術として注目されているアプリケーションのなかで、「スタートページ(StartPages)」というサービス/技術を企業内システムに適用するという動きを紹介した。今回は、同様な技術としてWebデスクトップ技術を紹介する。

デスクトップと同様の環境をWebブラウザで提供

 Webデスクトップとは、パソコンのデスクトップと同様の環境をWebブラウザで提供するサービスである。最近ではウェブトップとかウェブOSなどと呼ぶこともある。Ajax(Asynchronous JavaScript+XML)などの技術を使って、従来のOSと同様のデスクトップ環境をWebブラウザ上に実現するアプリケーションのことだ。

 単にデスクトップ環境を再現するだけでなく、ブラウザ画面の中で、ワープロや表計算、メールなどのアプリケーションを動かすことができる。詳細はITPro記者の眼「続々登場する『ブラウザ上のAjaxデスクトップ』はWebを変えるか」を参照すると良いだろう。

 これらのWebデスクトップサービスの中には、マルチウインドウにより個人ポータルの実現を狙ったものもあるため、前回紹介したスタートページ(StartPages)サービスと同様のものとして分類されることもある。しかし、スタートページ(StartPages)サービスは、各種アプリケーションの入り口やサマリー版をWebブラウザに統合するというもの。OSの機能の一部をWebブラウザ上に実現しようというWebデスクトップとは、本質的に異なる。

アプリケーションまでネットの向こう側に

 Webデスクトップ技術を使えば、データだけでなくアプリケーションもネットの向こう側に置くことができる。この分野では米StartForceや、YouOSを運営する新興企業の米WebShakaが、野心的活動を展開している。

 企業内システムでこの技術を活用すれば、すべてのデータを中央のサーバーで管理することができるので、ユーザーは煩わしい情報管理作業から解放されることになる。さらに、Webブラウザの動作する端末さえあれば、いつでも自分の仕事環境を呼び出せる。

 例えば出張時にも、社内ネットワークにつながったパソコンを使うことができれば、自席と同じような環境で仕事ができるようになる。最近はやりのフリーアドレス制のオフィスと組み合わせれば朝、入館して受け付けで「まっさら」のパソコンを借りて、昨日の退社時のデスクトップを再現する、といったことが可能だ。

 これは情報管理の面から見た場合、かなり画期的なことである。パソコンを各社員に管理させる必要がなくなることを示しているからだ。サーバー側にデータを保管するのだからパソコンを毎日回収し、ハードディスクをフォーマットし直して、最新のパッチ・ファイルを当てたOSをインストールするようにしていけば、パソコンからの情報漏洩対策コストを相当に引き下げることが可能だ。

 従来もフリーアドレス制のオフィスでは従業員は書類とバインダーの管理から解放されていたが、パソコンは各自の管理対象としてロッカーに残ったままだった。Webデスクトップ技術を使えば、パソコンの管理からも解放されることになる。

コンピューティングのトレンドは集中化の周期に

 さて、ここまで読んだ読者のみなさん、いかがだろうか?またしても「どこかで聞いたコンセプトではないか?」と思っていらっしゃるに違いない。

 そうこれは一昔前にはシンクライアントとして注目されていた技術に非常に近いものだ。IT業界には、同じようなコンセプトが数年の周期で繰り返し唱えられる傾向があるが、少し前にシンクライアントと呼ばれた技術がパワーアップしたのがWebデスクトップだと捉えても間違いではない。

 おりしも内部統制強化や情報漏洩対策などを実現するため、基幹系情報系システムだけでなくメールやワープロ、表計算といったオフィス・ソフトまで中央で管理して、セキュリティを強化しようという動きが強まっている。集中か分散かというコンピューティングの周期的なサイクルで考えると、最近は集中化の方向に追い風が吹いているようだ。

 究極の集中化の実現手段として、Webデスクトップ技術は重要な役割を果たすものである。企業内の情報システム担当者は、Enterprise2.0を他人事ではなく自らにもかかわる波だと理解して、Web2.0系の技術動向について克目したほうが良い。

吉川 日出行氏 みずほ情報総研コンサルティング部シニアマネージャー 技術士(情報工学部門)
情報共有や情報活用を主テーマに企業内情報システムに関するコンサルティングを展開中。ITmediaオルタナティブブロガーTOP30としてもブログ執筆中。