第28回において、『企業はオーケストラ』と題し、ドラッカーの「情報化組織」の考え方を紹介した。情報化組織とは、「同僚や顧客との意識的な情報の交換を中心に、自分たちの仕事の方向づけと、位置づけを行う専門家集団」である。ドラッカーは1989年に出版した『新しい現実』(上田惇生訳、ダイヤモンド社)の第14章を「情報化組織」とし、情報化組織の考え方、実践のヒントを記述している。

実際の仕事は、問題ごとのチームで行なわれる。(中略)いずれの企業でも、これまで、研究、開発、生産、マーケティングは、時系列的に分離されていた。しかし今日では、これらの機能すべての専門家が、同時に一つのチームとなって、研究の段階から、市場での地位確立まで、共同して働くようになっている。

 いわゆるプロジェクト方式、タスクフォース方式のことである。こうした組織をいかにうまく運営していくか。これは、プロジェクトマネジメントの範疇になる。本サイトの『本質を学ぶ』において、プロジェクトマネジメントに関わる論文を掲載しているのは、そのためである。
 ただし、ともすればプロジェクトマネジメントの研究は、大型案件をどう運営するか、といったテーマに向かいがちになる。企業内の諸活動をすべてプロジェクトとみなし、大小様々なプロジェクトを複数並行して進めるためには、エンタープライズ・プロジェクトマネジメントないしプログラムマネジメントという考えが必要になってくる。
 ドラッカーは、情報化組織の構造を論じるのはまだ不可能かもしれないと断り、次のように指摘している。

一つ明らかなことがある。すなわち情報化組織では、そこに働く人間一人一人の自己規律が不可欠であり、互いの関係と意思の疎通に関して、一人一人の責任の自覚が必要になるということである。

 米国の非営利団体、プロジェクトマネジメント・インスティチュート(PMI)は、プロジェクトマネジメントの知識体系の整備や資格試験の実施をてがけている。活動の一環としてPMIは、プロジェクトマネジャの「プロフェッショナル責任」というものを定義している。この定義を読むと、明らかにドラッカーの指摘と呼応していることが分かる。

(谷島 宣之=ドラッカーのIT経営論研究グループ)


ドラッカーのIT経営論研究グループ:社会生態学者、ピーター・ドラッカー氏の情報およびITに関する論考を読み解くことを目的とした有志の集まり。主要メンバーは、ドラッカー学会に所属するIT産業関係者である。