今から二〇年後には、大企業や政府機関など、今日の典型的な大組織では、経営管理者の階層は半分以下に、経営管理者の数は三分の一以下になる。(中略)おそらく組織の構造や、マネジメントの問題は、病院、大学、オーケストラなど、今日の経営管理者や学者が関心をもっていないような社会的機関の組織や、問題と似たものになっている。

 上記の一文は、1989年に出版された『新しい現実』(ダイヤモンド社)の中に納められている「情報化組織」の冒頭部分である。ドラッカーが同書を書いてから17年が経過した。この間、確かに大企業において、組織のフラット化や権限委譲が取りざたされ、階層の数は減った。ただし、ドラッカーが指摘したように、オーケストラのような運営がされているかというと、必ずしもそうではない。
 ドラッカーがオーケストラを持ち出したのは、オーケストラが知識を中心とする組織、すなわち専門家集団を中心に構成された組織であるからだ。企業や政府機関も、同様の形態を持つ組織になっていくという。ドラッカーは次のように指摘し、「情報化組織」を定義する。

「その専門家集団は、同僚や顧客との意識的な情報の交換を中心に、自分たちの仕事の方向づけと、位置づけを行うようになる。これが情報化組織である」

 ここで情報とは、「データに意味と目的を付加したもの」を指す。データを情報に変換するためには、知識と戦略が必須となる。コンピューターは必須ではない。むしろ、コンピューターがはき出す膨大なデータが、かえって情報化組織の運営を邪魔することもある。
 ドラッカーが指摘したほど、企業の有り様が変わっていない理由はいくつか考えられるが、その一つは、必要な情報の定義がうまくできないことにあると思われる。

(谷島 宣之=ドラッカーのIT経営論研究グループ)


ドラッカーのIT経営論研究グループ:社会生態学者、ピーター・ドラッカー氏の情報およびITに関する論考を読み解くことを目的とした有志の集まり。主要メンバーは、ドラッカー学会に所属するIT産業関係者である。