本欄「ドラッカーのIT経営論」の第33回に、ドラッカー思想のキーワードの一つ、"Management by Objectives and Self-Control"の新訳として、「自己目標管理」が掲載されていた。良くも悪くも「目標管理」という訳語が定着してしまったことを前提に考えると、「自己目標管理」は妥当な新訳だと思う。

 ただし、マネジメントを「管理」と訳す点については依然として違和を感じる。筆者の専門領域の一つは、「プロジェクトマネジメント」なのだが、こちらについても「プロジェクト管理」という訳語が長年使われてきた。プロジェクトマネジメント学会など、関係者の間から、「プロジェクト管理ではなく、プロジェクトマネジメントと書こう」という声があがり、専門家の間では「プロジェクトマネジメント」あるいは「PM」という表記が定着しつつある。

 前回掲載記事を読んで刺激を受けたので、僭越ながら、"Management by Objectives and Self-Control"の私訳を考えてみた。それは「自律的な達成目標によるマネジメント」というものである。いささか長くなるが、「個人の自律的な達成目標によるマネジメント」とさらに説明的な訳し方もあるだろう。

 私訳で強調したかったのは、「自律」ということである。自律には、Self-Controlの「コントロール」の部分の意味合いを含めている。さらにドラッカーが強くその必要性を訴える「個人と組織との関係の前提」であるべき「レスポンシビリティ」の概念を意識したものだ。

 例えば、大著『マネジメント』の副題は"TASKS・RESPONSIBILITY・PRACTICES"(邦題では「課題・責任・実践」)である。「レスポンシビリティ」は、ドラッカーが作り上げたマネジメント体系の根幹となる考え方のひとつであり、ドラッカー哲学の背景にある「何によって憶えられたいか」という言葉に通ずるものなのである。"Management by Objectives and Self-Control"は個人がすべきことであり、その意味合いを「自律」という言葉に込めてみた。

 レスポンシビリティは日本語で「責任」と訳されるが、もうすこし深く考えてみたい。レスポンシビリティとは、レスポンス(反応)とアビリティ(能力)が合体したものである。つまり、「自分の反応を選択する能力」ということになる。ここから自律性という言葉が導かれる。実は、英語にはもうひとつ「責任」を表す言葉がある。最近よく見聞きすることの多い「アカウンタビリティ」である。こちらは、「アカウント」とアビリティの組み合わせであって、自分が関わった行為の結果を明確に説明する能力という意味である。

 マネジメントとは、レスポンシビリティとアカウンタビリティの双方を果たすことと考えられる。プロジェクトマネジメントを例にとれば、プロジェクトに関わっているメンバーは、一人ひとりがレスポンシビリティを果たしつつ、しかもプロジェクトのオーナーや社会に対し、アカウンタビリティを果たす。明確な目標が掲げられてこそ、この二つの責任をともに果たすことにつながる。