中国内のブロードバンド化は,急速に進んでいる。中国ネットワーク・インフォメーション・センター(CNNIC)によると,1億3700万ユーザーのうち,ADSLなどのブロードバンド回線を利用しているのは9000万人以上であるという。

 企業の情報システムに欠かせない通信インフラが急速に進化していることは,日系企業にとって好材料である。専用線だけでなく,IP-VPNなどの比較的低料金で利用できるサービスも増えてきた。日本通運の子会社である香港日通は,中国内30都市71拠点を結ぶ回線を,専用線からIP-VPNに切り替えた。「拠点数増加にともない回線数は増え,二重化もしているが,安価なIP-VPNにしたため,通信費は年間数千万円単位で削減できた」(香港日通の資訊科技部の山下卓経理)。

南北キャリア間が低速

 ただ,日本のような低料金や,高い品質を求めるのは難しい。インターネットについては,チャイナ・ネットコム(中国網通)とチャイナ・テレコム(中国電信)の2大通信キャリアが,最高1Mビット/秒と512kビット/秒のADSLサービスを提供している。ただ,「実効速度は,128kビット/秒程度あればいいほうだ」(ある日系企業幹部)。

 特に悩ましいのは,「2つの通信キャリア間の通信が低速であること」(NTTコミュニケーションズ グローバル事業本部の関 洋介 新規事業開発部長)だ。日本のNTTに相当する通信キャリアは中国に2つあり,サービス地域が2分されている。チャイナ・ネットコムは北京市や天津市など,中国の北地域をサービス・エリアに持つ。一方のチャイナ・テレコム上海市や香港などをサービス・エリアとする。揚子江を挟む格好である()。

図●揚子江をはさんだ南北キャリア間の通信帯域が狭い
図●揚子江をはさんだ南北キャリア間の通信帯域が狭い

 その両キャリアのネットワークを結ぶ回線の速度が遅い。北京と上海でオフィス用品の通信販売サービスを手掛けるコクヨ商業(上海)公司 系統部のエドワード・ファクトマン高級経理も「キャリア間の通信速度が遅いのには困っている」と明かす。

写真●上海にあるKVHのデータセンター
写真●上海にあるKVHのデータセンター  [画像のクリックで拡大表示]
 このような現状に,日系通信サービス・ベンダーが力を入れているのが,両キャリアの回線を引き込んでいる「キャリア・フリー」と呼ばれるデータセンターのサービスである。南北の拠点で直接通信をするのではなく,キャリア・フリーのデータセンターを介して通信すれば,ボトルネックを回避できる。コクヨ商業(上海)も利用を検討しているという。NTTコミュニケーションズ,KDDI,KVHなどがサービスを提供している。各事業者とも,現地の事業者が構築したデータセンターを間借りし,運用・監視体制を整えている(写真)。

法人利用だと割高

 料金やサービス・メニューも,日本とは異なる点が多い。上海ファミリーマート公司の加計朗 経理は,「専用線よりは安いといっても,日本に比べればまだまだ高い」と,通信サービスの料金の高さを嘆く。コンシューマ向けのADSLサービスは,月額100元~150元程度。同じサービスを商業利用する場合は,1000元程度に料金が跳ね上がるのだという。フランチャイズの店舗を増やそうとしている同社には,大きな負担になっている。

 「サービス・メニューがわかりにくい。都市によって利用できるメニューが異なるため,WANの構築に苦労した」と話すのは,リコー(中国)投資公司信息系統部の梅里啓二経理。中国のリコー・グループ各社は,2002年に通信インフラの再構築に着手した。従来は専用線や衛星通信回線を利用していたが,IP-VPNサービスなどが利用可能になり始めたため,整備に着手した。

 上海にあるデータセンターをハブにして,リコーが全世界を結んでいるプライベート・ネットワーク「R-WAN」に接続する構成である。中国内の各拠点は,上海のデータセンターと接続するが,そのために利用する通信サービスが都市によって異なり,選択が難しかったという。

この連載は日経コンピュータ4/30号の特集記事「中国市場を切り開く」の取材結果などを参考に執筆しています。