ピーター・ドラッカー氏は、ネクスト・ソサエティ(異質な次の社会)において重要なことは、専門知識と技能を持つテクノロジスト(専門教育を受けた技能を持つ技術者)をマネジメントすることだと述べている。
 経営者は、テクノロジスト(技能技術者)にやる気を出してもらい、いい仕事をしてもらわなければならない。すなわちテクノロジストの生産性を高めることが経営者の責務と言える。問題は、テクノロジストの生産性をどうやって測ったらよいかである。
 ドラッカー氏は、知的労働者の生産性を測る方法を述べている。テクノロジストも知的労働者なので、この方法が使えるはずだ。

 「あらゆる知的労働者に三つのことを聞かなければならない。第一が強みは何か、どのような強みを発揮してくれるか。第二は何を期待してよいか、いつまでに結果を出してくれるか。第三はそのためにはどのような情報が必要か、どのような情報を出してくれるのか」。

 これを読んで拍子抜けする読者も多いと思う。しかし何回か読み直すとなかなか味わい深い方法であることがわかる。経営者あるいはマネジャと、テクノロジストがこの三点についてやりとりをして何らかの取り決めをする。強みの度合いとそれを実現する期間を組み合わせると、そのテクノロジストの生産性になる。
 実際にテクノロジストがどのように仕事をするかについては、テクノロジストに任される。テクノロジストは一人のプロフェッショナルであり、自分自身をマネジメントできるということが前提にある。
 生産性の計測というと、コンピュータの世界であれば、「毎日どのくらいのプログラムを書いたか調査する」、「設計作業にかかった工数を記録する」といったことを思い浮かべる。これはこれで企業にとっては重要である。だが、ドラッカー氏はこうしたやり方は、知的労働者には適用できないとして、別著で次のように述べている。

 「インダストリアル・エンジニアリングや品質管理など肉体労働者の仕事を測定評価するための手法は,知識労働者には適用できない。知識労働者は自らをマネジメントしなければならない」。

 果たしてシステムズ・エンジニアやプログラマーは、上司から仕事ぶりを数値で計測される肉体労働者なのか。それとも自身をマネジメントして、事前に確約した成果を出すテクノロジストなのだろうか。

(谷島 宣之=ドラッカーのIT経営論研究グループ)


ドラッカーのIT経営論研究グループ:社会生態学者、ピーター・ドラッカー氏の情報およびITに関する論考を読み解くことを目的とした有志の集まり。主要メンバーは、ドラッカー学会に所属するIT産業関係者である。