ピーター・ドラッカー氏は、ネクスト・ソサエティ(異質な次の社会)において重要なことは、専門知識と技能を売り物にするテクノロジスト(専門教育を受けた技能を持つ技術者)をマネジメントすることだと述べている。前回紹介したように、テクノロジストあるいは知識労働者にとって、意欲の源泉となるのは、次の4点である。

  • 組織が何をしようとしており、どこへ行こうとしているかを知ること
  • 責任を与えられ、かつ自己実現すること。もっとも適したところに配置されること
  • 継続学習の機会を持つこと
  • 何よりも敬意を払われること。彼ら自身よりも、むしろ彼らの専門分野が敬意を払われること
  •  今回は、「責任を与えられ、かつ自己実現すること。もっとも適したところに配置されること」について少し考えてみたい。
     現状の情報システム関連の世界を見ると、これはなかなか難しいことである。「なんでこんな仕事ばかりなのか。もっと自分の力を生かせる仕事があるはずだ」と思っているITプロフェッショナルは多いだろう。
     問題は、IT関連企業におけるマネジメントにある。システム開発を請け負うシステム・インテグレータと呼ばれる企業や、ソフトウエア開発会社の経営者や管理職が、テクノロジストがやる気を出す適材適所の人事をしているかというと、残念ながらあやしい。IT産業のうち、ソフトウエアに関連した業界においては、顧客企業ごとにエンジニアを常駐させる、旧態依然のやり方で仕事が進められている。
     情報化の総合誌『日経コンピュータ』に、システムズ・エンジニア(SE)や、SEのマネジメントに関して、長期連載をしていた馬場史郎氏は、連載をまとめて『SEを極める50の鉄則』『信頼されるSEの条件』という二冊の書籍を出版している。
     両書の中で、馬場氏は、SE管理職(SEマネジャ)のジョブアサインの重要性を執拗に語っている。部下が育つように配置することと、部下の希望をそのまま聞くことはもちろん同じではない。多少リスクがあっても、「今この仕事を彼にさせると伸びる」と判断し、思い切ってアサインすることが何よりも大事と馬場氏はいう。
     SEを成長させるジョブアサインをするために、馬場氏は「SEの名前と担当する仕事を書いた体制図を顧客に出してはならない」と主張する。体制図を出したとたん、そのSEはその顧客企業の仕事だけをするようになってしまう。これでは幅が広がらない。同時に複数企業の仕事をする時期があったほうが、SEは成長できるという。
     もちろん、体制図の提出云々は、主体性を持ったSEマネジメントをしていることの象徴であって、顧客に体制図を出したとしても、SEマネジャの度量次第で、複数の仕事をSEにアサインすることができる。ただし、そうした配慮ができ、時には顧客と対峙する気骨あるSEマネジャがどのくらい存在するのだろうか。

    (谷島 宣之=ドラッカーのIT経営論研究グループ)


    ドラッカーのIT経営論研究グループ:社会生態学者、ピーター・ドラッカー氏の情報およびITに関する論考を読み解くことを目的とした有志の集まり。主要メンバーは、ドラッカー学会に所属するIT産業関係者である。