「企業情報システムがまだ経営に寄与していない」「その問題を解決するために経営者は情報責任を果たさなければならない」とピーター・ドラッカー氏は喝破した。経営者の情報責任とは「会社を舵取りするために、こういう情報が欲しい」と明言することである。さらにドラッカー氏は「組織が必要とする情報」を四分野に整理している。前回の本欄で四分野の概要を紹介した。
四分野の一つに、「企業内のイノベーション関連情報」というものがある。ドラッカー氏は、この企業内イノベーション関連情報をさらに四つに分けた。「基礎情報」(企業の基本的数値、キャッシュフロー、売掛金と売上高の比など)、「生産性情報」(経済付加価値、ベンチマーキングなど)、「強み情報」(コアコンピタンスの情報)、「資金情報と人材情報」(資金と人材を最適配分・配置するためのもの)である。
おおむね基本的な情報が列挙されているが、一つだけ分かったような分からない情報がある。「強み情報」である。企業でも、団体でも、個人でも、自分自身の強みを案外分かっていないものだ。そもそも自分の強みをどのように表現すればよいのだろうか。しかも強みがますます強くなっているとか、逆に弱くなっているといったことをどのように把握し、表現すればよいのだろうか。
ドラッカー氏は強み情報の必要性を述べているだけで、「今日のところ、自らの強みを知るための情報については、実例をもって示す以上のことはあまりできない」としており、詳しいことは書いていない。ただ、強み情報を把握するための第一歩として、簡単なやり方を挙げているので紹介したい。
自社および競争相手の仕事ぶりを丁寧にフォローし、予期せぬ成功を見つけ、さらには成功すべき領域における予期せぬ失敗を見つける
あまりにも単純な方法だが、これがドラッカー氏が挙げているやり方である。つまりイノベーションの成否を記録するわけだ。斬新な製品を出して市場を席巻できた時、なぜその製品を開発できたのかを検証しておく。ここから自社の強みが分かってくる。逆に、競争相手が斬新な製品を出して市場を席巻した時、なぜ自社が同様の製品を開発できなかったかを検証するというわけだ。当然、ここから弱みが分かる。
あらゆる組織が、イノベーションにかかわる自らの業績について記録し、評価するためのシステムを必要とする
イノベーションを記録するシステムといっても、大げさなコンピュータシステムのことではない。
客観的な測定ではなく、主観的な評価を求めるものである。答えを出すというよりも、問題を提起するものである。
イノベーションを記録するための質問は例えば、以下のようなものである。
「自社の強み弱みを分析することなど昔からやっている」と思われるかもしれない。しかし、それらの多くは、経営企画部門の作文であったり、事業部門長が言い訳をするための報告書であったりする。そうではなく、経営トップが上記の問いを素直に発し、結果を記録することが、ドラッカー氏がいう強み情報蓄積の第一歩となる。
(ドラッカーのIT経営論研究グループ)
ドラッカーのIT経営論研究グループ:社会生態学者、ピーター・ドラッカー氏の情報およびITに関する論考を読み解くことを目的とした有志の集まり。主要メンバーは、ドラッカー学会に所属するIT産業関係者である。