ピーター・ドラッカー氏は、ネクスト・ソサエティ(異質な次の社会)において重要なことは、専門知識と技能を持つテクノロジスト(専門教育を受けた技能を持つ技術者)をマネジメントすることだと述べている。過去数回にわたって紹介しているように、テクノロジストあるいは知識労働者にとって、意欲の源泉となるのは、次の4点である。

  • 組織が何をしようとしており、どこへ行こうとしているかを知ること
  • 責任を与えられ、かつ自己実現すること。もっとも適したところに配置されること
  • 継続学習の機会を持つこと
  • 何よりも敬意を払われること。彼ら自身よりも、むしろ彼らの専門分野が敬意を払われること
  •  今回は、四点目について考えてみたい。それは、「何よりも敬意を払われること。彼ら自身よりも、むしろ彼らの専門分野が敬意を払われること」である。IT(情報技術)関連のテクノロジスト、すなわち情報システム担当者やIT関連企業のSE(システムズエンジニア)たちは、敬意を払われているだろうか。彼ら自身よりも、ITという彼らの専門分野が敬意を払われているだろうか。読者の方々は、ここから先を読むのを止め、自問自答してみていただきたい。
     筆者の私見を書くと、残念ながら、いずれについても、まだまだではないかと思う。
     よく、IT抜きの企業経営はありえない、と言う。メディアがそう報道するし、経営者も同意する。だが、この言葉の意味を心底理解している経営者はまだそれほど多くはない。ITは、社会のイノベーションにとっても有効な道具であるが、その点の理解も乏しい。もっともっと多くの人に、ITの威力を伝えなければならない。もちろん、ITは万能の道具ではないから、ITの限界もまた理解してもらわないといけない。本サイトは、そのための一助として開設されている。
     そして、「IT関連の仕事」とはどのようなものか、についても知ってもらう必要がある。企業情報システムの企画・設計・開発・運用といった一連の仕事の概要と、それぞれの段階で必要となるテクノロジストの職種と仕事の内容。これらは本来、一般教養であるべきと筆者は考えるが、現実にはITにかかわる仕事をしている専門家の間でしか、知られていない。
     IT関連の仕事の本質が伝えられていないにもかかわらず、「SEは徹夜ばかりする職種で報われない」、「SEには、理屈っぽく、ビジネスパーソンとしての常識が欠けている人が多い」といった風説が流れる。風説にITプロフェッショナルは反論していくべきであろう。「反論する場所がない」という方は、本サイトやITProを利用していただきたい。

    (谷島 宣之=ドラッカーのIT経営論研究グループ)


    ドラッカーのIT経営論研究グループ:社会生態学者、ピーター・ドラッカー氏の情報およびITに関する論考を読み解くことを目的とした有志の集まり。主要メンバーは、ドラッカー学会に所属するIT産業関係者である。