今回は,前回までに書ききれなかったことを,取り上げて締めくくりたい。本稿を読んだら,ぜひ第1回目から再読してほしい。「プランニング」という仕事の意義,難しさ,楽しさ,取り組み方を再認識できるはずだ。

Q1 「日本独自のWebプランニングは可能か?」

 各地域には,その原風景でしか獲得されえない個性がある。日本に限らず,重要なのは,新規性,土着性,叙情性,の3点を心がけること。日本なら,四季の変化の中で育まれる繊細な感性を持ち続けることだ。

 独自企画を立案するなら,まず,「衣食住」をテーマに考えてみよう。世界各国どこであっても,生きていくための基本要素をテーマにすれば,奇をてらって注目を集めるのではなく,ユーザーに必要な情報を届ける,というごく当たり前の仕事ができる。宣伝ノウハウを持つプランナーは特に,「ほんとうに人に役立つことで,対価をもらう」ということを忘れないようにしよう。

 また,ビジュアルプランにおいては,和の感性を生かしてみよう。色彩辞典などにある,古来の色の名前と,その深い色合いを見直してみるのも,一つの手がかりだ。

 そして,レイアウトする時は,画像や文字といった対象物ではなく,空白部分を見て,位置を決めよう。クールなデザインは,空間の使い方が計算し尽くされている。掲載データの優先順位が明確で,メリハリがある。空間にこそ,意味と物語がある。もっとも,メリハリを付け過ぎて,小さい文字が読みにくく,内容が伝わらないようでは意味はない。

 東洋的なるものを見つめ直す中で,他文化を取り入れることも,たいせつだ。Web上の図形描画は,VMLやSVG,XAMLの登場により,ビットマップよりもベクトルベースが優勢になっている。これは日本人にはフィットする傾向だ。日本画やマンガと,油彩とを比べれば一目瞭然だが,東洋の絵は線で構成されており,西洋の絵は面で構成されている。そのため,逆に,ベクトル形式でありながら面に見えるインタフェースを多用すれば,斬新に映る。

 さらに,「以心伝心」という言葉に凝縮される繊細な配慮も,忘れないようにしよう。筆者たちが以前,プロトタイプの実装を担当した福祉ツール(XMLアプリケーション)は,アルファ版を出展したCSUN2005で(CSUNについては本サイト内の別記事「世界最大アクセシビリティ関連イベント,CSUN 2007レポート」を参照),他国の大味なユーザー・インタフェースに比べ,ボタンの文字や位置にいたるまで細かい部分まで配慮がなされていると,来場者に驚かれたそうである。それは,日本ではごく当たり前のことに過ぎない。日本発の企画は,無言の配慮を表に出せば,十分,海外で通用すると思われる。

 自ら開発実務を手がけない人たちが,日本のIT業界の独自性について,負の面ばかり強調していたとしても,それは叱咤激励だと受けとめればよく,諦める必要はない。プランナーが,独自性の打ち出し方に気づいていないか,あるいは気づいていても日々の忙しさに埋没して,提案を怠っているかの,どちらかだ。各々のプランナーには,各々にしかできない企画が,あるはずだ。

Q2 「ユニバーサルなWebプランニングのポイントは?」

 (筆者も含め)プランナーは,XHTMLとCSSで実装すると企画書に記載しただけで,ユニバーサル・デザインを達成できたような気になりがちだ。ところが,最低限守るべきアクセシビリティの基準はあっても,これだけ守っておけば万全という上限はないので,自戒が必要だ。

 例えば,一時的なハンデにまつわる話をしよう。利き腕を骨折した人をイメージしてほしい。部活動中に怪我をした元気な青年と,家の中の何でもない動作で骨折した中高齢者では,不自由の程度も,不自由な期間も違う。同じ「利き腕を折った人」として一括りで扱ってよいはずがない。前者なら,もう一方の手でマウスを操作してネットショップを巡るかもしれないが,後者は,すぐに諦めるだろう。

 他者がうかがい知れないハンデもある。内臓や神経まで傷ついている場合もある。弱視も,人それぞれで見えかたが違うという。Webページのコントラストの強さは,弱視者の多くには歓迎されるが,自閉症者の一部には逆に歓迎されないという。理想のWeb閲覧環境は人それぞれだ。100人のユーザーがいれば100人にやさしい「唯一の」Webサイトは,達成不可能な理想である。

 だからこそ,個別の機能追加や,先端機器(介護ロボット等)の利用も含めた,総合的な提案を心がけなければならない(図1)。

 人はひとりひとり皆違う。人の多様性を理解することから始め,ユーザーの役に立つ企画を考えていこう。

図1 「ユニバーサル・デザイン」を目標に,個別に「バリアフリー」で補おう(拡大表示

Q3 「デザインとプログラムを完全分離した工程は可能か?」

 開発ツールは,デザインとプログラムを完全分離する方向に進化している。理論上は,どんな案件であっても可能だ。しかし,現場では難しいこともある。

 希望納期に間に合わせるため,たたみかけるように進む小規模案件では,デザインコードとロジックのコードを頻繁にやり取りすると,上書きミスを引き起こしかねない。プロパティ値の設定やCSSコーディングをプログラマが手がけることは,よくある話だ。現時点では,完全な分担作業は目標としてとらえ,その目標に縛られず,臨機応変に対応するほうがよい。

 だが,完全な分担が可能になったとしても,「作業分担」とは「担当以外の作業を知る必要はない」ということではない。プログラマがデザイナーになったり,デザイナーがプログラマになる必要はないが,お互いの仕事を理解し合う必要はある。

 つまり,プログラマはクールなデザインをできる必要はないが,XHTMLやCSSコーディング,グラフィック作成用ソフトの基本操作を習得する。そして,デザイナーは,設計まで担当できる技術を身に付ける。設計は,ユーザー・インタフェースとページ内レイアウトに,深く関わるからだ。その際,いろいろな技術に関心を持ちつつも,中途半端にかじるのではなく,何か一つの開発言語をマスターすることが技術習得の近道だ。

 いちばん望ましいのは,両者が同じ開発ツールを使いこなし,デザインもプログラミングも同じレベルでこなせるようになることだ。そうすれば,開発テーマや互いのスケジュールによって,分担方法を決めることができる。病気や怪我といった万が一の場合にも,完全なバックアップ体制があることになり,顧客側も安心できるに違いない。

 なお,この作業分担の問題は,デザインとプログラムにとどまらない。例えば印刷媒体との連動企画には印刷物の企画制作経験が,テキストを練るには文章修行が必要だ。専門を極めることと,専門にとらわれることは違う。重要なのは,「all‐or‐nothing」ではなく,バランス感覚だ。

Q4 「理論が先か,実践が先か?」

 筆者は,まず,「現場での実践」をお奨めする。