前回の本コラムでは,放送法の改正によって可能になる携帯端末向け地上デジタル放送「ワンセグ」の独自番組解禁問題を取り上げた。後半となる今回は,「サーバー型放送」について考えてみる。

 サーバー型放送の起源は,東経110度CS放送で行われていた「ep放送」にある。HDD(ハードディスク駆動装置)レコーダーの記録領域に,放送局が独自の番組を一定時間のうちに送信し,視聴者はHDD内に蓄積された番組を好きな時間に楽しむというコンセプトだったが,2007年春に放送が終了してしまった。

 今回の放送法改正案ではNHK関連で,「既放送番組等」というカテゴリーが新たに加わり,「電気通信回線を通じて一般の利用に供すること」という文言が明示された。NHKは埼玉県川口市に「NHKアーカイブス」を設置し,全国各地の放送局でその運用を開始している。過去に放送した番組のうち著作権処理されたものをライブラリーという形で,各放送局のエントランスなどに設置された端末で一般の視聴者に開放している。

 今回の放送法改正案では,こうした番組を「既放送番組等」と位置付け,著作権をブランケット処理できるようにして、ブロードバンド(高速大容量)回線を通じて一般家庭に提供することを可能にする。民放の番組と違いNHKの番組は受信料によって制作されており,より公益性が高いため,国民の福祉向上の観点からそのアーカイブの開放には,著作権者にも視聴者にもメリットがある。

 さらにNHKは,一つのコンテンツで様々な視聴者のニーズや視聴状況に対応する視聴環境適応型放送サービス「Adap TV」(アダプティービー)の研究も進めている。「Adap TV」は,適応させるという意味の「Adapt」に関連させた造語である。一つの放送コンテンツに各シーンの意味や目的,内容の難易度,シーン間の関係,登場人物や物の位置など番組に関連する情報をメタデータとして付加して伝送するサービスだ。受信機側では視聴者の知識や趣味嗜好(しこう),視聴端末のサイズ・解像度,視聴場所などの情報をプロファイル(視聴者・環境プロファイル)として事前に把握しておく。このプロファイルとメタデータを使って,コンテンツの“知的変換”を行う。こうした高度な「テレビを超えたテレビ」のサービスが完成するのは,2011年の完全デジタル化以降であろう。

初期のサービスはパソコンでの視聴が中心か?

 2008年度から2011年ごろまでの初期のサーバー型放送は,パソコンでの視聴がメインになると筆者は考えている。そのため,比較的小さな画面での視聴にも耐え得る過去のニュース番組の検索のほか,「NHKスペシャル」や「プロジェクトX」などのドキュメンタリー番組のダイジェスト視聴,「朝の連続ドラマ」や「大河ドラマ」の俳優別検索,「連想ゲーム」や「ステージ101」といったエンターテインメント番組のキーワード別検索など,多くの番組の中から検索エンジンを使って視聴者が目的の番組を探し出すというサービスに期待している。

 すなわち,プル型のセッション要求があって「既放送番組等」がブロードバンド回線を通じて視聴できるというスタイルである。ただし,完全デジタル化への移行期間であるここ数年は,1M~2Mb/sから324kb/s程度までの品質で配信されるものと考えられる。ブラウザーが日本独自の仕様になるともいわれており,電波産業会(ARIB)で審議されてきた「サーバーP」の規格とどの程度整合性をとっていくのかにも注目している。

 本格的な国民へのサービスを考えると,既に普及している「Windows Media Player」(WMP)や「QuickTime」といったフォーマットにも対応してほしいと言ったら,国会の審議を担当している関係者はどう答えるのだろうか。英BBCは既に「iTunes」の英国サイトでは積極的に,ラジオ番組からBBCの第1チャンネル及び第2チャンネルで放送している人気ドラマまでダイジェスト配信している。こうしたストリーム配信が実現可能となる「AppleTV」のような端末も使われ始めている。

 もちろん,こちらは通信サービスだが,筆者はサーバー型放送のショーケースとして、こうした既存の通信サイトをサービスの視野に入れる必要がないのか気になっている。そして,肝心の視聴料金と受信料の関係や整合性がどうなるのかについても,早期に情報を開示してほしい。


佐藤 和俊(さとう かずとし)
茨城大学人文学部卒。シンクタンクや衛星放送会社,大手玩具メーカーを経て,放送アナリストとして独立。現在,投資銀行のアドバイザーや放送・通信事業者のコンサルティングを手がける。各種機材の使用体験レポートや評論執筆も多い。