2006年6月,米国アラスカ州歳入局は80万個以上のPDFファイルを含むデータベースを完全に失ってしまった。アラスカ州歳入局は,州内のすべての有資格者に毎年税金の払い戻しをする380億ドル分の基金を管理している。PDFファイルの内容は,彼らに分配される基金(2006年度は申込者1人当たり1600ドルを少し上回っていた)への申込書だった。アラスカ州歳入局は,非常に単純な方法でデータベースを失ってしまった。何と彼らは,うっかりデータベースを削除してしまったのである。

 アラスカ州歳入局は今,エラーという名の悲喜劇的状況の中にいる。バックアップとリストアを確認することの重要性を示すシナリオを作成したいのなら,これ以上の例はないだろう。アラスカ州歳入局はデータベースのオンライン・バージョンを削除しただけでなく,局員がミラーのハード・ドライブをフォーマットして,ミラーされたデータベースも削除してしまったのだ。現在における古典的な悲劇となってしまったこの話には,まだ先がある。その後,アラスカ州歳入局はテープ・バックアップを使おうと思ったのだが,何とテープ・バックアップがなかったのだ。さらに意外なことに,アラスカ州歳入局は品質の悪いテープを使っていたわけでも,いい加減な手順でバックアップを行っていたわけでもなかったのだ。問題の原因はもっと単純なものだった。バックアップ・アプリケーションの設定を担当していた人物が,2006年版のPDFデータベースをバックアップするようにアプリケーションを設定していなかったのである。

 結局,データは本当にシステムから消失されてしまった。ミラーされたドライブもないし,バックアップ・テープもないのだ。この失態が,コンピュータの歴史上最悪の政府機関による失態にならずに済んだのは,2つだけ救いがあったからである。まず1つ目として,アラスカ州歳入局はテープ・バックアップから2000~2005年のデータを回復して,データベースを2006年のアップデート以前の状態にリストアできた。2つ目に,同組織のポリシーは,基金への申込書のハード・コピーを,最低でも一年間保管することを義務付けていたのである。

 2006年のデータベースは,非常に手間のかかる方法で復旧された。4人の職員が10週間をかけて300個の書類保管箱から払い戻し申込書を取り出し,それらをスキャンしてデータベースに取り込んで,ようやく失われたデータを回復できたのである。この作業に費やされた税金は,約20万ドル程度だった。こうした失態がなければ,このお金はもっと有意義なことに使われていただろう。だが年1回発行される小切手は,少し遅れただけできちんとアラスカ州民に送付され,同局の業務はすべて事件前の状態に戻った。

 アラスカ州歳入局はその後手順を強化して,バックアップを毎日確認すること,そしてバックアップ・プロセスを毎月更新・再検討することを義務付けている。幸運だったのは,アラスカの人口が70万人以下だったことだ。もっと人口が多い州でこうした失態が起きていれば,問題の解決に数年とは言わないまでも,数カ月は要していただろう。これと同規模のミスが小・中規模の営利団体で発生したら,その組織は簡単に倒産してしまうかもしれない。

 アラスカ州歳入局に起きたことをよく考えて,自分自身のバックアップ・ポリシーと手順を再確認し,バックアップを使ってビジネスを復旧できるかどうかじっくり見直してみてほしい。