中国に進出している日系企業からよく聞こえてくるのが,「日本ではスムーズにいくことが,中国ではうまくいかない」との声だ。大連にあるアルプス電気の子会社,大連アルプス電子公司も2007年の新システム構築中,中国の“常識”を痛感した。

 同社が構築しようとしていたのは,「手冊管理システム」である。大連アルプス電気が自動車部品などを生産するために輸入した材料と輸出する部品の,種類や数量を管理するためのシステムである。従来は紙ベースで管理していたが,商品の種類が数万点もある上に商量が増えたため,漏れなどのミスが生じる恐れがあった。そこで06年7月に,大連税関の提案でシステム化することを決めた。

開発終わるもテストはできず

写真1●大連アルプス電気の吹山浩司董事総経理
写真1●大連アルプス電気の吹山浩司董事総経理

 しかしその前提となるのが,大連税関が指定するシステム連携パッケージ用ソフトを購入して,利用することだった。吹山浩司 董事総経理は,「中国アルプス電気グループは,大連以外の都市で同様のシステムを開発した経験があった。しかし,連携パッケージは市や省ごとに異なるため,一から調査しなくてはならなかった」と振り返る(写真1)。

 06年10月まで連携パッケージを分析し,連携方式などもメドが付いた。大連アルプスで基幹系システムと連携パッケージ間のデータ交換は,CSV形式のファイル使う。連携パッケージが大連税関のシステムと,輸出入情報をやり取りする仕組みである。07年3月にシステムの開発は終了した。

 しかし,4月に稼働予定なのにもかかわらず,いっこうにテスト・フェーズに移れない。大連税関側のシステムがうまく稼働していないとのことだった。どうやら一足先にシステム連携を始めたほかの日系メーカーとの接続テストで不具合が生じていたとみられる。もともと大連税関が提供するパッケージを使っているにもかかわらず,である。

業務の洗い出しが進まない

 「中国では,業務をシステム化するということそのものに慣れていないようだ」と話すのは,カシオ計算機 業務開発部の上原敬氏。中国現地法人に基幹系システムを導入するための業務分析をする際,中国人従業員の思わぬ反応にとまどった。生産拠点や代理店などとのやり取りを含めた業務プロセスを図式化しようとしたところ,中国人従業員はそれができなかったのだ。

 日本から派遣された上原氏は,図表に業務プロセスを書き込んでもらうことで,その詳細を洗い出そうとしていた(写真2)。しかし返ってきた図には,商品が動く,支払いをする,といった基本的なやり取りが2~3書き込んであるだけだった。

写真2●カシオ(上海)貿易公司が基幹系システム開発に使った図式
写真2●カシオ(上海)貿易公司が基幹系システム開発に使った図式

 「仕方がないので,担当者を集めて数時間かけて,直接ヒアリングをしながらホワイトボード上に業務プロセスを書き出していった。このようなことに慣れていないのだと感じた」(上原氏)。06年10月に販売・物流管理システム,07年1月には財務会計システムと,カシオ(上海)貿易公司は次々とシステムを稼働させた。

回線が期日通り開通しない

 インフラが思い通り構築できず,悩む日系企業も少なくない。大連で日系企業のシステム構築案件を手掛ける大連ビートック信息技術公司の担当者は,「中国の通信事業者に振り回された」と明かす。大連と日本にあるシステムを国際回線で結ぼうとしたが,回線開通日の予定の時間になっても担当者が現れない。

 日本と大連両拠点には,確認のための担当者がスタンバイ済み。回線が開通し次第,システムが利用可能かどうかをテストする段取りを組んでいた。しかし,それも回線が開通しなくては,話が始まらない。担当者は翌日にしようとしたが,コネを使って何とか当日に間に合わせるよう手を回した結果,担当者が現れたのは夜遅くになってからだったという。

 「むしろ,日本のように期日通りに何事もうまくいくという国のほうが少数だという認識を持つべき」と,アクセンチュア 通信・ハイテク本部の大川秋生パートナーは指摘する。日本以上に予備日を設けておくなどの対策が必要だろう。

この連載は日経コンピュータ4/30号の特集記事「中国市場を切り開く」の取材結果などを参考に執筆しています。
■変更履歴
コメントの一部を取材先からの申し出にもとづいて修正しました。 [2007/05/29 16:40]