草の根的にエリアを広げる公衆無線LANサービス「FON」。2005年にスペインでサービスが始まり,日本でも昨年12月に本格展開を開始した。3月末には日本における無線LAN アクセス・ポイント(AP)数が1万カ所を突破し,着実にユーザーが増えているという(関連記事)。

 筆者も4月中旬にFON対応の無線LANルーター「La Fonera」を入手し,無線LAN APの公開を始めた。自分のAPを無償提供する代わりに,他者のAPを無償利用できる「ライナス」(Linus)サービスのユーザーとなったのだ。ユーザーとなった以上は,他者のAPを使ってみたくなるのが人情。そこでゴールデン・ウィーク中に,筆者が住む市内で公開されているFON APに接続してみた。今回は,その結果を報告したい。

 筆者が住んでいるのは,東京近郊のとある市で人口は約20万人だ。実験に当たっては,まず無償公開されているAPの場所を把握しておかなければならない。APの場所は,サービス提供元のフォンが公開している「FON MAPS」で調べることができる。ここで見てみると,筆者の自宅周辺には筆者が公開しているAPを除き10数個のAPが公開されていた。ほとんどが住宅地にある。このうち「1時間以内にアクティブだったFONアクセスポイント」を10個選び,その場所まで行って無線LAN接続をしてみた。なお「1時間以内にアクティブ」なAPは,FON MAPS上では濃い緑色で示されている。

 実験を実施したのは5月6日。あいにくの雨模様ということもあり,車でAPのあるところまで移動して車の中から接続を試みた。接続実験を行うポイントは,FON MAPS上にAPを中心として表示されている半径約50mの緑色の円(ここではFON APエリアと呼ぶ)の中であればどこでもよい,というルールにした。細い路地が曲がりくねっている住宅地では,APのすぐそばに車を停めることが困難な場合もあるからだ。徒歩でAPの場所まで行くという実験方法も考えられるが,実際にFONを利用するシーンを考えてみても,わざわざパソコンを持ってAPのそばまで歩いていってインターネット接続するなどといったことは想定しにくい。車の中からというのは,妥当な実験方法だと思われた。

 APの場所をFON MAPS上で拡大表示して印刷したものを持参し,それをカーナビの地図と見比べてFON APエリア内に停車していることを確認。ノート・パソコンを使ってIEEE802.11b/g方式による無線LAN接続を試した。

 さて,前置きが長くなったが以下の表が実験結果である。

表●FON AP接続実験結果
  地図上のAP設置場所 AP検出,接続の可否 下り実効速度
1 一戸建てと思われる場所 AP検出不可 ──
2 一戸建てと思われる場所 AP検出不可 ──
3 集合住宅と思われる場所 AP検出/接続不可 ──
4 一戸建てと思われる場所 接続可 757kbps
5 集合住宅と思われる場所 AP検出不可 ──
6 一戸建てと思われる場所 接続可 3.5Mbps
7 集合住宅と思われる場所 AP検出/接続不可 ──
8 集合住宅と思われる場所 AP検出/接続不可 ──
9 集合住宅と思われる場所 接続可 985kbps
10 商業施設と思われる場所 AP検出不可 ──

 表を見ると分かる通り,10カ所のAPのうち,きちんと接続できたのは3カ所のみ。残りの7カ所のうち3カ所はAPの存在が確認できたものの接続できず(「AP検出/接続不可」),4カ所はAPの存在すら分からなかった(「AP検出不可」)。なお接続できたAPでは,速度測定サイトにアクセスして実効速度も測ってみた。最も高速なAPでは下り最大3.5Mbpsを記録。他の2カ所は数百kbpsだった。言うまでもなく3.5Mbpsもあれば非常に快適なインターネット接続が可能だ。数百kbpsでも,メール送受信や通常のWebサイト閲覧は問題なく行える。

 AP検出/接続不可だった3カ所では,2種類の現象が起こった。一つは,電波強度が非常に弱かったというもの。Windows XPの「ワイヤレス ネットワークの選択」画面で,「ネットワークの一覧を最新の情報に更新」を何度かクリックしてようやく「FON_」で始まるSSIDが見つかったものの「接続」には失敗。再度,接続を試みようとして一覧を更新しても,なかなかSSIDが現れないといった現象だ。こうしたAPは2カ所あった。もう一つは,「FON_」で始まるSSIDは安定的に表示できているものの,なぜか接続できなかったというもの。原因は不明である。この現象は1カ所だけだった。

 一方,APの存在すら分からなかったケースは,原因は定かではないが,類推すると大きく二つの可能性があると思われる。一つは,「AP検出/接続不可」と同様に電波強度が非常に弱かったということ。そしてもう一つは,「そもそもそこにAPはなかった」という可能性だ。

 後者については少し説明が必要だろう。実はライナス・サービスのユーザーとなってFON MAPSに自分のAPの場所を登録する際は,地図上のどこにAPを置くのかがユーザーに任されているのである。意図的に位置を偽ることもできる。極端な話,地図上では他県にAPを置くこともできるのだ。実際,FON MAPS上では東京ディズニーランド内にも二つのFON APが置かれており,うち一つは「アクティブ状態」の濃い緑色となっている。東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランドがFON APを置くとは考えにくく,虚偽のAPである可能性が高い。それどころかFON MAPSでは,海上にすらいくつものアクティブなFON APが存在している。これらは“ジョーク”以外のなにものでもない。

 「互助の精神で成り立っているFONでAPの場所を偽るとは何事だ」。このように感じる方も少なくないかもしれない。

 ただユーザーの立場になれば,「APの正確な場所はあまり示したくない」という心理も理解できる。というのも,インターネット上のバーチャル空間とは異なり,APの場所はリアルな世界だ。FON APを利用したくて,見ず知らずの他人が自宅に向かってやってくるかもしれないのである。FON MAPS上では,少しだけ位置をずらしておこうという気持ちになったとしても不思議ではない。

 さらに言えば,FONの持つセキュリティ上の“ある欠点”が,APの場所をあからさまにしたくない心理を助長させている面がある。セキュリティ上の欠点とは,自宅からインターネットにアクセスした場合と,他のライナス・ユーザーが公開FON APを通じてインターネット・アクセスした場合とで,ネット上に出るグローバルIPアドレスが同じだという点である。このため,他者が掲示板などで法律に反する書き込みなどを行った場合,その書き込みを行った者として,まず「FONを公開している善意のユーザー」が疑われる可能性がある。

 もちろん,このように意図的にAPの位置を偽るだけでなく,単純に場所登録の際に間違えてしまう可能性もある。地図を拡大しないままクリックすると,100mや200mは簡単にずれてしまう。しかしその100mや200mのズレが公衆無線LANサービスでは大きい。

 今回の10カ所だけの実験で,短絡的な結論は出せないだろう。しかし登録の方法からしても,必ずしもFON MAPSの信頼性は高くないと言わざるを得ない。「タダ」のサービスなのだから,それぐらいは仕方ないと言ってしまえばそれまでだ。だがフォン自らがFONサービスのことを「インフラ2.0」と呼ぶように,FONをさらに広げていくには,やはりライナス・ユーザーのメリットがきちんと示されなければならない。

 筆者は,それにはまず前述のセキュリティ上の欠点を解消するところから始めないといけないのではないかと感じている。安全性をきちんとうたい,安心して正しいAPの場所を登録してもらうことが第一のステップではないだろうか。

 実際のところ,フォンは対策を検討しているようで,それについては取材を進めている最中である。詳細が分かり次第,再度,みなさまにご報告しようと考えている。