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「無理なソフト開発」は常態
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| 写真●『デスマーチ』著者・コンサルタント エドワード・ヨードン氏 |
増えている理由はいくつかあります。一つは、グローバルな競争が激化しているということ。日本企業も米国企業も以前にも増して、新しい製品、新バージョンを早く市場に出さなければいけないというプレッシャーを受けています。しかも、ソフトはどんどん複雑化しています。ここにある携帯電話には、300万行ものソフトが入っています。携帯電話のようなシンプルなデバイスであっても、写真も撮らなければいけないし、音楽も流さなければいけない。ありとあらゆる機能が要求されていて、しかも短時間で開発しなければならないのです。10年前に『デスマーチ』第一版を世に問うたときより、複雑性ははるかに増しています。
20年前、私はアセンブラでプログラムを記述していました。その後、新しい開発言語やツールが出て、ソフト工学の世界が開けました。それでも、デスマーチはなくならないのですね。
確かに、よりよいプログラミング言語、よりよい開発ツールが存在しています。ソフト工学の手法は20年前と比べるとかなり改善されてきました。ところが、デスマーチの課題というのは、技術やソフト工学の側面ではなくて、プロジェクトの交渉など、主として政治的な部分にあるのです。
今日では、様々な手法があり、ソフトを開発するのにどのぐらいの期間が必要になるのかを、かなり正確に予測できます。ところが、手法を使って出した正確な開発期間を、企業の上級幹部が政治的にはねつけてしまう。「競争が激しい。開発期間をもっと短くせよ」と言ってくる。こうして色々な問題が発生していきます。
20年前、開発期間を予測する手法は非常に原始的なもので、正確とは言えなかった。このため当時の上級幹部は、開発期間の数字を出したソフト技術者に対し、「無能だ」と言いました。今は正確な数字を出しているのに、「非協力的だ」、「頑固だ」と言ってくる。結果はどちらもデスマーチです。
上級幹部の考えを変える方法はありませんか。
政治的側面から言いますと、危機に直面して初めて変わることができるのではないでしょうか。日本の企業も米国の企業も、ソフトでも、それ以外でも構いませんが、市場で大きな問題に直面して初めて、「変わらなければいけない」、「改革しなければいけない」となってくる。残念ながらそれが唯一の機会ではないかと思います。
先ほど指摘された政治や交渉ごとにソフト技術者はあまり興味を持てないように思います。
プロジェクトの成功にとってそれが非常に重要であるということを認識するようになれば、少なくとも一部の人は関心を持つようになるでしょう。もちろん、全員が政治をうまく動かすというようにはならないと思います。そもそもソフトの世界で働きたいという人の多くは、政治的なことが嫌いでソフトの仕事を選んだわけですから。
一番大事なのは、認識を持たせることです。私自身、若きソフト技術者であった頃、ソフトの問題は技術者の自分が現場で解決していくものと思っていました。大学で勉強したときも、人間的要素あるいは政治的な要素がソフト開発に関連している、といった話は一度も聞きませんでしたので、そういった認識に向かえなかったわけです。
今まで27冊の本を書きましたが、『デスマーチ』を除くと、すべてテクニカル系の本でした。技術的な問題があれば技術的な解決策で対応すればいい、対応策は誰にも合理的に受け入れられる、と思っていましたが現実は違う。そこで政治やマネジメントの話に踏み込まざるを得なくなったのです。
ソフト開発に失敗する原因として、無理なスケジュールもありますが、要件定義があいまいなまま開発が始まるという点もあります。要求工学や要求管理ツールの動向をどう見ておられますか。
要求工学のツールや手法を使うという試みはありますし、一部は役に立っていると思いますが、最終的には、人間同士のコミュニケーションが鍵となります。ソフトを使う利用者たちは、自分たちの要求事項を頭の中には持っているのですが、それをきちっと言葉にして、頭の外に出すことがなかなかできない。できたとしても世の中の変化が早く、要求事項それ自体が変わっていってしまう。
要求事項をきちんと文書化して管理していく点にも改善の余地がありますが、開発過程において要求事項が変化していくことを許容する、フレキシブルな開発プロセスが必要だという意識が高まっています。