米Microsoftが米Googleのことを本気で競争相手として考えていることは事実だ。特に,「Google Apps」のようなオフィス製品を脅威に感じているようだ。ただし,筆者の頭の片隅には,Bill Gates氏が繰り返していた「Microsoftの最大の敵はGoogleでもLinuxでもなくIBM」という言葉がこびりついている。Microsoftが相互運用性に再び力を入れ始めた理由も,ここにあるだろう。

 まずは,MicrosoftとIBMの対立点をまとめてみよう。Microsoftのビジネスは「ユーザー・フレンドリー」の観点で構築されている。Microsoftの膨大なOSやアプリケーション製品群は,固有のテクニカル・スキルを身に付けた膨大な顧客(ユーザー企業)を背景にして成立している。

 一方IBMのビジネスは,「サービス・モデル」の観点で構築されており,コンサルタントはどんなシステムでも配置してサポートできるが,それを使うのがどんなに大変かは彼らの知ったことではない。そしてIBMはビジネスの世界にせわしなくLinuxソリューションの種をまきつつある。もしIBMのコンサルタントが,「ユーザー企業が保有するWindowsベースのスキルセット」に依存しているMicrosoftの競争面における優位性を無くしてしまえるのであれば,Microsoftのビジネスは縮小していくことになるだろう。

 MicrosoftにとってIBMが潜在的な脅威であるという視点は,Microsoftが相互運用性について再び力を入れ始めたことを話している時に,私の心に浮かんだものである。筆者はMicrosoftの相互運用性およびXMLアーキテクチャの統括マネージャであるJean Paoli氏と話していた。Paoli氏は,Microsoftが異機種環境をサポートするための構造化アプローチに重点を置いていることを強調した。その時に彼が何気なく言った一言が,筆者の頭から離れないのである。彼はこう言ったのだ。「Microsoftは計画的に相互運用性を提供しており,競合他社やパートナーとのブリッジも計画的に構築している。これは多くのコンサルティング・サービスを提供し,異なるシステムをつなぎ合わせていくやりかたとは正反対である」

 注目したいのは,「コンサルティング・サービスを提供して,異なるシステムをつなぎ合わせていくやり方とは正反対」という部分である。なぜならこれこそがMicrosoftの相互運用性戦略の中心であり,同様に会社としての総体的な戦略だからだ。同社が推進する「計画的に相互運用性を提供する構造化アプローチ」とは,Microsoft製品の管理を容易にする「Dynamic Systems Initiative(DSI)のポイントでもあるが,実際にはどのようなものなのだろうか。

人やデータ,多様なシステムの結合

 Paoli氏によれば,Microsoftのユーザー企業は相互運用性を,セキュリティやプライバシーと同じくらい重要なものと考えているそうだ。相互運用性の重要性に対処するため,Microsoftの新しい構造化アプローチは4つの「ツールセット」を中心に展開している。

 まず「製品」である。Paoli氏はこのツールセットを「我々の製品の作り方が相互運用性の次元で受け入れられる」ようにするためのものであると説明していた(『相互運用性の次元』とは,Microsoftが提供するすべての相互運用性機能を指す)。

 次に「コミュニティ」である。Jeanはこのツールセットを,競合他社やパートナーとのブリッジを構築するための「パートナー,競合他社,そしてユーザー企業との共同作業方法」を決定するためのものだと説明していた。その例の1つが「Interoperability Customer Executive Council(相互運用性カスタマー評議会)」である。これは「ユーザー企業が危惧している主要なシナリオ」を理解する目的で設置されたものである。筆者がMicrosoftとNovellとの間で結ばれた契約について尋ねたとき,Paoli氏はこう述べた。「2006年10月には,Interop Vendor Allianceの結成を発表した。これはソフトウエアおよびハードウエア・ベンダーのグローバルなグループであり,ユーザー企業に代わってMicrosoftシステムとの相互運用性を拡張していくための機会を特定していく作業を共同で行うものである。Microsoftはこのような方法でNovellなどの企業と共同作業していく。Red Hatも最近加わった。現在約50のパートナーが参加している」

 次は「アクセス」である。Paoli氏によれば,パートナーや競合他社,ユーザー企業がこのツールセットを使用することで,「Microsoftが開発した知的資産とテクノロジ」を使用して,自分たちのテクノロジにおける相互運用性を実現し,Microsoftのソリューションと一体化きるようになるとのことであった。この例の1つが,「Office Open XML FormatとOpenDocument Format(ODF)の間の技術的なブリッジを構築するためのツールを作成する」という「Open XML Translatorプロジェクト」である。「いくつかの国の政府がこの分野の相互運用性を求めていたので,これは非常に現実的である」とPaoli氏は語る。

 最後は「標準」である。このツールセットを使用することで,どの業界の技術標準を採用するかを決定するための情報をMicrosoftに提供できる。競合他社やユーザー企業は業界標準化団体に参加することによって,Microsoftが相互運用性の求められる市場(例えば政府など)に適応できるかどうかを確認する手助けができる。2006年12月にEcma InternationalがOffice Open XMLフォーマットを標準規格として承認したのはこの例である。Paoli氏は,「Novellはこの標準規格をOpen Officeに実装しつつある。我々はこれをOpen XMLを使用してOffice 2007に実装した」と語る。

 Paoli氏は最後にこう述べた。「本当に重要なことは,この4つのツールセットを使用するまさに構造化されたアプローチによって,我々は基本に立ち返り,実際のカスタマ・ニーズを理解し,解決しているということなのである」

相互運用性関連のスキルの構築

 相互運用性の概念を製品の設計や事業戦略の策定に盛り込むことによって,Microsoftはユーザー企業に新しいMicrosoftスキルを提供し,コンサルタントの大群を呼ぶ必要性をなくしつつある。ユーザー企業にとって正しいことを実行すれば,Microsoftは同業他社との競争で常に優位に立つことができるのである。