前回は、システムコンサルタントを目指すSEが身に付けるべき「心」「技」「体」のうち、最も基本的な「体」であるビジネスマナーを紹介した。今回は、システムコンサルタントの「技(ワザ)」、つまり顧客企業の経営者に対峙し、コンサルティングを行うための“技術”を解説する。

 「コンサルティングは顧客の業務をよく知っていないとできない。だから顧客に負けないくらいに、業務を熟知することが必要だ」と世間で言われることが多いが、これは正確ではない。むしろ間違っている。

 システムコンサルタントの「技(ワザ)」には、2通りがある。1つはもちろん、システム技術のことでSEなら身に付けているものである。もう1つは、コンサルタントとしてのワザである。このワザに熟達すれば、たとえ業務を熟知していなくても、きちんとしたコンサルティングができるようになる。

 顧客の業務を熟知していることに越したことはないが、通常は難しく、不可能なケースがほとんどである。では、どうすればよいのか。顧客の中で業務に詳しい人にプロジェクトに入ってもらい、その人をあたかも自分自身の分身であるかのように使えばよい。顧客の経営者でさえも自分の分身のように活用すればよいのである。コンサルタントとして鍛えるべきワザとは、そういうものである。周りの力を活用して、自分の持っていないものを自分のものとする。柔よく剛を制すのたとえ通り、相手の力を活用できるようにするワザなのである。

 表1に、システムコンサルタントが習得すべき、そうしたワザを上げる。そのいくつかを紹介しよう。

顧客に知見を示すのではなく、聞き上手になる

 よく勘違いしているシステムコンサルタントがいる。自分の知見を一生懸命に相手にひけらかして、尊敬を得てプロジェクトを進めるのがコンサルタントの仕事ととらえている人である。このタイプのコンサルタントは話し方を訓練し、知識や情報、話題をいっぱい仕込んで、顧客に臨もうとする。

 こうしたやり方は、顧客が本当に何も知らない場合か、何か話題を提供してもらって、それをきっかけに問題意識を明確にしたいと望む場合には有効かもしれない。しかし、実際に経営者と会話をしてみると、何かを聞きたいのではなく、悩みや問題意識を説明したい、言いたくて、言いたくて仕方がないという方が圧倒的に多い。この場合、コンサルタントは話すという姿勢ではなく、聞き手に徹して相手の言わんとしている本意を聞き出すことが役目なのである。

 極端であるが実際によくある事例としては、上手に聞いてあげればコンサルタントの役目は終わってしまう場合がある。どんどん話してもらって「要は、あなたの悩みはこういうことで、それを解決したいのですね」と真の問題を定義すれば、経営者自身の中で解決してしまったりする。そこまでいかなくても「そう、それなんです。私の言いたかったことは」と得心してくれる。そうなれば、コンサルタントとしての役目の第1段階は終わり。逆に言うと「きちんと聞いてあげる」ということができないと、本当の意味のコンサルティング活動は始まらないのである。

 聞き上手は、極端に言えば新人でもなれる。顧客は、聞き手がコンサルタントだから話すのではなく、聞き手が誠実で、話がしやすく、聞き上手な人だから話をするものなのである。しかし忘れてはならないのは、聞くばかりではなく、最後に「要は、こういうことですね」と、相手を得心させるようなことが言えなければならないということだ。それにより、顧客はきちんと聞いてもらえたと判断する。そこまでを含めて、コンサルタントの聞き上手と言えるのである。

プレーヤーではなくコーチの立場になる

 システムコンサルタントは、プレーヤーではなくコーチの立場に徹することも重要である。スポーツでは、タイガー・ウッズにも、イチローにも優れたコーチが付いている。プレーヤーは自分自身の姿は見えない。自分では気が付かないことをコーチに指摘してもらう。コーチは本人以上にプレーヤーのことを分かっているので、プレーヤーに役立つのである。

 企業も同じで、良いところ、悪いところを含め自分自身のことは分からない。他人や世間からはどのように見え、思われているか分からないのである。分からないから自信が持てない。結果コンサルタントを必要とするのである。改善すべき点や進むべき方向を示してあげるのがコーチとしてのコンサルタントの役割である。それをどう受け止めて、どう取り組むのかは、プレーヤーである顧客の責任である。

 評判が悪いコンサルティングの代表例は、「コンサルタントばかりがどんどん先へ進んで、付いて行けない」「自社ではコンサルタントの言うことなど実施できない」というケースだ。到底できそうにもない提言を平気でするコンサルタントは困る。コーチとしての自分の位置を忘れてしまっている結果である。

 自分が理解して実行するのではなく、顧客が理解し実行してもらえるようにするのがコンサルタントの役目である。相手の実行可能性を考えた提言でなければいけない。コンサルタントはコーチのスタンスを習得することが必要である。

図1●システムコンサルタントの「ワザ」
図1●システムコンサルタントの「ワザ」

本質をつかみ、一言で説明できるようになる

 日本とは何か、何を説明すれば日本を説明したことになるか。自分の会社とは何か、何を説明すれば自社を説明したことになるのか。問題があってその原因を示す時に、何を示せば本質的な答えを示したことになるのか―。コンサルタントは、鋭い切り口で的確に本質をとらえ、示すことが常に求められる。本質をつかむ鍛錬が必要である。

 本質の説明には、コンパクトな表現が求められる。本質とは一言で適語表現されるべきものであり、説明を要しない言葉で伝えるものなのである。では、「日本を説明して下さい」と問われた時、どう答えればよいのか。ある人は「自由な国です」、別の人は「四季の美しい国です」、さらには「先進国の1つです」と答えるかもしれない。どれもうなずくことができるが、十分ではない。十分かどうかは、受け手次第だからである。世界地図を思い出してほしい。日本で見る世界地図では日本が中心だが、米国では米国が中心に描かれている。つまり、相手の問題意識により焦点が異なり、つかまなければならない本質も異なるのである。

図2●システム発想のプロセス
図2●システム発想のプロセス

 抽象的な話なので、実際のコンサルティング事例で紹介しよう。ある企業のCIO(最高情報責任者)から「システムトラブルが多い。システムの現場は努力しているのだが、減る傾向にない。第三者の目で見てほしい」と依頼を受けたことがある。そこで、システム企画・開発・運用の各現場の担当者にヒアリングした。結論は「現象はシステムトラブルだが、問題は情報システム部門ではなく事務企画部門にある」であった。

 制度変更や新商品発売など、やるべき事と期限は決まっていたのに、その業務処理の要件を事務企画部門が決めるのは、いつもギリギリだった。そのため、情報システムのテストで必要な時間が取れず、結果として不十分なテストしかできずに本番運用されていた。ではなぜ、事務企画部門が弱体になったのか。企業合併により、50歳以上の事務部門の経験豊富な人材をリストラした結果であった。問題の本質は経営施策にあったのである。「事務管理機能の復活を図らないとシステムトラブルは減少しない」ことをコンサルティング結果として報告したのは言うまでもない。

 本質は何か。当事者は案外気が付かないものである。その本質を最初の段階で鋭く示せるかどうかが、コンサルティングの成果にも大きくかかわる。まさにワザの見せ所である。

「システム発想」のプロセスを身に付ける

 先進的な情報システムには、革新的な「システム発想」がある。顧客がコンサルタントに期待することの1つは、システム発想の手助けである。ヒアリングから本質をつかむことと、システムコンセプトが発想できることとは異なるワザである。センスも必要なので、コンサルタントのワザの中でも一番難しい。

 優れたシステムコンサルタントになると、ヒアリングを終えると同時にシステム発想し、提言できることもあるが、一般には3段階のプロセスで発想する(表2)。最初の段階は、「インプット」である。ヒアリングや現場見学、文献やニュースの収集などを通じて、情報を脳に吸収する。そして、この次が大事なのだが、感覚的にそれをつかむ。個別・詳細にこだわらず、全体を把握し、しかも漏れていないつかみ方をする。疎にして漏らさずの把握がインプットである。

 その次は「熟考」である。コンセプトを得ようと、それこそ死ぬほど考えるのである。コンセプトはなかなか思い浮かばない。気分転換にジョギングしたりして、いったん忘れた状態にする。意識的に考えるのを止め、無意識で考えているような状態にまでもっていく。すると突然、第3段階の「ユリイカ(分かった。これだ)」が来て、コンセプトが生まれる。

 これが、システム発想のプロセスである。ユリイカに至るまでのプロセスを日常的に鍛錬するためには、時代の流れを常に自分なりに把握する訓練をすることである。鋭い慧眼をもって時代を説くドラッカーやトフラーなどの先人の記述などに多く接し、その鋭い切り口に触れて、その感触を覚えておく。そして、その感触をまねて自分の周りの現状や今の時代を、自分なりにどうとらえるかを常に整理しておく。例えば、次世代のシステムコンセプトでのキーになる切り口は何かを考えて、自分なりの観点を持っておく。それがシステム発想の感度を磨くことになるのである。

 システムコンサルタントのワザについて述べてきたが、会得するには、実際の場や日常で意識して繰り返して訓練することが必要である。プロ野球のピッチャーになりたければ投球練習を繰り返す。バッターなら繰り返し素振りをする。日常の出来事から本質をつかみ、時代を読む。そんな訓練を繰り返せば、必ずそれぞれのユリイカを会得できる時が訪れるのである。

黒岩 暎一
テクノロジストコンサルティング代表取締役社長
元・野村総合研究所常務システムコンサルティング本部長。約200社・団体のシステムコンサルティングを経験。2005年にテクノロジストコンサルティングを設立。CIOやITサービス業向けコンサルティング、システムコンサルタント育成サービスを提供。