前回は,判決の事実認定のうち,客観面を中心とした認定を取り上げました。今回は,主観面について判決の認定を見ていきます。

 主観面について,判決は以下のような判断基準を示しています。

(3) 結局,そのような技術を実際に外部に提供する場合,外部への提供行為自体が幇助行為として違法性を有するかどうかは,その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する認識,さらに提供する際の主観的態様如何によると解するべきである。

 つまり,幇助行為が違法性のあるものかどうかは,「その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する認識」と「提供する際の主観的態様如何による」としているわけです。

 この主観的態様について,検察官は捜査段階の被告人の供述を根拠に,「被告人がWinnyを開発・公開したのは専ら著作権侵害による著作権法違反行為を助長させることを企図したものである」と主張しました。これに対し,被告人は「Winnyの開発・公開は自分が興味をもったファイル共有ソフトの技術的検証を目的としたものであり,捜査段階における供述調書は捜査官の作文である」と反論しています。

 そこで裁判所は,捜査段階での被告人供述についての任意性,信用性について詳細に検討しています。

 その結果,判決では,被告人の捜査段階における供述には若干の変遷が認められるとしつつ,一定の範囲で捜査段階の供述は十分信用できるとしています。その根拠の1つは,以下に示す「Winny2 Web Site」における被告人の書き込み内容「Winnyの将来展望について」と供述がおおむね一致している,としたことです(注1)

・インターネットの普及の結果,従来のパッケージベースのビジネスモデルは時代遅れであり,Freenet的なP2P技術が本質的にインターネットの世界では排除不可能であり,現在のコンテンツ流通の根本的問題はコピーや配信ではなく,情報はタダが当たり前というインターネット世界における集金モデルの不備にある,P2P技術そのものを悪と決めつけて排除しようとすると最終的にインターネット技術そのものの排除につながる等の書き込みがなされていた。

 ただし,平成16年5月11日付京都地方検察庁における被告人の弁解録取については,信用性は認められないと判断し,被告人が著作物の違法コピーをインターネット上にまん延させようと積極的に意図していたとは言えない,と認定しています。信用性が認められないと判断された弁解録取の主旨は,「Winnyが著作権法を侵害する態様で利用されることはWinny開発当初からわかっており,Winnyを作成した目的は,コンテンツ,ソフトウェア業界のビジネスモデルが多くの矛盾をはらんでおり,これを変えるために,あえてインターネット上での著作物の違法コピーをまん延させることが必要であると考えており,Winnyが著作権を侵害する態様で使用されることは分かっていて,それを望んでもいた」というものです。

供述とともにメールや書き込みなどから主観的態様を認定

 判決では,一部を除いて信用性のある捜査段階の供述,前記「Winnyの将来展望について」における書き込み内容,姉へのメールの内容(注2),一般のソフトウエア公開サイトと異なる匿名サイトでWinnyを公開していたことから,被告人の主観的態様を以下のように判断しています。

被告人は,Winnyが一般の人に広がることを重視し,ファイル共有ソフトが,インターネット上において,著作権を侵害する態様で広く利用されている現状をインターネットや雑誌等を介して十分認識しながらこれを認容し,そうした利用が広がることで既存のビジネスモデルとは異なるビジネスモデルが生まれることも期待しつつ,ファイル共有ソフトであるWinnyを開発,公開しており,これを公然と行えることでもないとの意識も有していたと認められる。

 その上で,本件で問題となっているWinny2の公開時点でも,被告人は同様の認識・認容を有していたと認定しています。

 なお,「認容」の意味なのですが,単なる認識とは違う意味で使われます。主観的態様は,大きく分けると故意と過失に分かれるのですが,犯罪事実を「予見」していた場合,過失との区別が難しいことになります。故意がどのような場合に認められるかについて,結果発生の可能性を認識し,しかも発生してもかまわないという「認容」があれば,故意が認められる(認容説)というのが通説的な見解です(注3)。本判決も,被告人がWinnyが著作権を侵害する態様で広く利用されていること等を認識していただけでなく,著作権侵害が発生してもかまわないと考えていたことを認定しているのです。

 また,被告人が公判廷において,「Winnyの開発,公開は技術的検証が目的であって,Winny2に関しても,P2P型大規模BBSの実現を目指したものである」と供述したことについては,その部分の供述は信用できるとしつつ,上記の囲みで認定した主観的態様と両立しうるものだと判断しています。

 本判決は,以上のような事実認定に基づき,幇助犯が成立することを以下のように結論付けました(注4)

本件では,インターネット上においてWinny等のファイル共有ソフトを利用してやりとりがなされるファイルのうちかなりの部分が著作権の対象となるもので,Winnyを含むファイル共有ソフトが著作権を侵害する態様で広く利用されており,Winnyが社会においても著作権侵害をしても安全なソフトとして取りざたされ,効率もよく便利な機能が備わっていたこともあって広く利用されていたという現実の利用状況の下,被告人は,そのようなファイル共有ソフト,とりわけWinnyの現実の利用状況等を認識し,新しいビジネスモデルが生まれることも期待して,Winnyが上記のような態様で利用されることを認容しながら,Winny2.0β6.47及びWinny2.0β6.6を自己の開設したホームページ上に公開し,不特定多数の者が入手できるようにしたことが認められ,これによってWinny2.0β6.47を用いて甲が,Winny2.0β6.6を用いて乙が,それぞれWinnyが匿名性に優れたファイル共有ソフトであると認識したことを一つの契機としつつ,公衆送信権侵害の各実行行為に及んだことが認められるのであるから,被告人がそれらのソフトを公開して不特定多数の者が入手できるように提供した行為は,幇助犯を構成すると評価することができる。

 次回は,本判決をどう評価したらいいのかを考えてみたいと思います。

(注1)前回の表「3 被告人と関係者間のメール送受信の状況等」のイの部分
(注2)前回の表「3 被告人と関係者間のメール送受信の状況等」のアの部分
(注3)他に,動機説(行為者が認識を自己の行為動機とした場合に故意を認める),蓋然性説(結果発生の蓋然性を認識した場合に故意を認める)といった考え方がありますが,今回の事案では実際上の違いは生じないものと思われます
(注4)判決文中の甲,乙は著作権侵害の正犯(実行犯)


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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。