顧客企業の経営者と会話して、最終的にシステムコンセプトを生み出しSI案件につなげるのが、システムコンサルタントの仕事である。経営者と対峙できるようになるためには、修得するべき「心」「技」「体」がある。前回までに「体」「技」を解説した。今回は最後の「心」を紹介する。

 SEであれば業務レベルの会話でも済む。しかし、システムコンサルタントは経営者と話をすることから仕事が始まる以上、経営者と対等に会話できなければ仕事にならない。経営者はシステムコンサルタントより年齢が上の場合が多く、仕事上の経験だけではなく、人生の経験もシステムコンサルタントより勝っていて普通である。手強い相手である。

 そんな相手には、“対峙できる心”が必要である。対峙できる心とは、人間として向き合う心のことである。システムコンサルタントである前にビジネスマン。ビジネスマンの前に人間。まず人間としての魅力を磨くことが大切なのである。魅力あふれる人間とは、誰だって会話をしたくなる。そして誠実さ。「誠実に勝る智恵なし」という言葉がある。まさしく経営者には誠実さをもって当たるのが基本である。

経営者と対等に向き合えば“先生”になれる

 初対面の場合、誰でもまず仕事の中身ではなく、目の前にいる相手がどんな人間かを知りたいものである。特に経営者なら、その人間がどんな人間かが分かり納得できないと、外部の人間に経営上の悩みを話すことなどできないからである。そういうわけなので、相手はいきなり趣味の話を聞いてくるかもしれない。どんなコンサルタントなのか、自分にとって役立つ人物かどうかを知るために聞くのである。

 そのため、趣味を持つだけでなく、趣味の分野で関心を持ってもらえるような話題が話せるように準備しておくことが必要である。豊かな趣味で心を磨いている魅力ある人なら、容易に会話が弾むはずである。同様に事件や世間の関心事、IT活用の話題などについて質問されたら、単に答えるだけでなく、相手の琴線に触れるような答え方が必要である。それによっては、コンサルタントの人物像が定まってしまう。

 誠実さは重要だが、単に真面目なだけではいけない。「帯(おび)解き話をする」ことが肝要なのである。風呂へ入るには、帯を解いて着物を脱がなくてはならない。つまりハダカになって、装飾なしに本音で話ができなくてはならない。それができてこそ、魅力ある人間、誠実な人間である。自分がハダカになって話し、相手もそれに応えてくれる。そうでない会話、ヒアリングは意味のない単なる無駄話である。

 自分を相手にさらして、それで相手が得心すれば、後は会話がどんどん進む。システムコンサルタントとして聞きたいことも、何でも聞けるようになる。そして、相手も心底より情報システムのプロとして敬意を払ってくれる。コンサルタントにシステムのプロとしての自覚があるならば、対等に向き合えるようになる。実は、対等に会話できることを相手の経営者も望んでいるのである。

 あなどるのでもなく、臆するのでもなく、対等に向き合う気持ちが何より必要である。対等に向き合えると、不思議なもので、先生と生徒の立場に変わる。人 生経験においては未熟であっても先生役になれる。こうした状態が、経営者とコンサルタントの自然な関係なのである。臆せず、自分の未熟さをさらすことも含 めて自然に振る舞うこと。それができれば、経営と対峙できる心が備わったことになるのである。

経営者へのアポイントが最初の仕事

 経営者と対峙するために、システムコンサルタントが修練すべき“心”のあり方まとめた()。もちろん、心は目に見えないが、態度や言動ににじみ出てくるものである。次に、その“具体例”を示してみよう。

図●経営者と対峙するシステムコンサルタントの“心”
図●経営者と対峙するシステムコンサルタントの“心”

 システムコンサルタントは、経営者に会えなくては話にならない。面識がない経営者にアポイントを入れようとすると秘書から「どんなご用件でしょうか?」と聞かれる。その時に、相手の経営者の琴線に触れる用件、興味や関心を持ってもらえる用件を言えなければならない。そうでないとまず会えない。日程に余裕があるのなら、手紙にした方がよい。手紙なら用件を入念に練って、心のこもった言葉や文章を組み立てて伝えることができるからである。

 面談の希望を伝え、「具体的な日時は秘書を通じて後日調整させていただきます」とするわけである。電話でアポイントを入れる際には、「既にお手紙で用件をご連絡しています」と言えば、秘書も安心して対応できる。「お手紙で用件を伝えているとのことですが、面談を設営してよろしいですか」と目指す相手に確認してもらえるのである。ここまで丁寧、かつ誠実なアプローチを取ると、余程のことがない限り会ってもらえる。こちらの人となり、用件についても、ある程度、先方に伝わっているので、実際に面談したときに実質的な会話、ヒアリングができて効果的である。

 経営者に面談の機会をもらうのは大変なことである。逆に言えば、多忙な経営者から面談の機会を与えられたということは、少なくとも初回はこちらを向いてくれたということであり、最初のひと仕事を終えたと言えるほどの価値があることなのである。

何を聞くかより何を語ってもらうかが重要

 せっかくの機会なので、いろいろと聞いておきたい気持ちは分かる。しかし、経営者にヒアリングする場合、聞きたい内容をリストアップしてそれを聞くのではなく、本当に聞き出さなくてはならないことは何かを、まずはしっかりと確定しておき、聞き出すために会話を工夫することが大事である。

 聞きたいことを直接質問して答えてもらうのではなく、関連する会話の中で自然にそれが出てくるように仕向けることも大切である。直接聞くと、答えてもらえないこともある。メインの質問を次々と聞くのではなく、途中で違う話題を挟んだり、コメントしたり、感想を述べたりして会話を誘導する。返答に窮する質問ばかりをぶつけていると、相手は心によろいを着る。逆に、お互いにハダカになって話をする場ができれば、相手は自ら語ってくれるものである。

 ところで会話に際しては、常に相手の目線、関心事、状況に応じて、つまり、相手の立場をおもんばかって会話し、話を聞くことが大事である。聞き出さねばならない内容には、相手の恥部みたいなことや、他人には言えないこともあるだろう。相手の気持ちをおもんばかるゆとりが必要である。このような内容を聞くときは、まさしく先生と生徒、医者と患者の関係になる。相手の信頼を損ねることなく、誠心誠意聞くことが大事である。相手が自分は患者で、コンサルタントは医者だと思うぐらいにならなければ、本当の打ち明け話は出てこない。こうした関係を崩さないように、会話に注意を払うことが必要である。

経営者との面談は一期一会のつもりで

 経営者と面談できる機会は通常何度もない。トップ経営ともなると、大げさではなく生涯に一度あるかないかの機会になる。だから、一度の機会しかないつもりで、渾身のヒアリング、プレゼンテーションを心掛けなければならないし、実行しなくてはならない。その時に相手と波長が合わなければアウトなのである。

 一生に一度の晴れ舞台のつもりで、どんな目的にせよ、練りに練り、考えに考えて当たることが大切である。とにかく、やっつけ本番などでは絶対に騙されな い相手である。システムコンサルタントとしての能力だけでなく、人間としての魅力や誠実さが最大限に問われる機会だと認識すべきである。

 一期一会のつもりで会話をする。それが相手にとって価値あるものとなれば、「また、お出かけ下さい」「また、教えて下さい」と声を掛けられ、報われることになる。そのとき「はい、また来させていただきます」と即座に応ずることができるようなら、経営と対峙できるシステムコンサルタントであるといえる。自分が渾身の会話ができたのなら、満足感で自然に「また来させていただきます」という言葉が口をついて出てくるはずである。相手の琴線に触れていたかどうか、相手に何かのインパクトを与えたかどうか、対峙した自分が一番分かっているからである。

 満足感で気分が高揚することもあるし、悔いが残る場合もある。いずれの場合も、素晴らしい体験といえる。ほかのことでは経験できないことなのである。素晴らしい達成感、ひどい自己嫌悪、この体験の一つひとつが、次の「また来させていただきます」を生む。こうした体験でないと、次の成功は生まれてこない。

「啐啄同期」の心でコンセプトを引き出せ

 システムコンサルティング活動の基本的な目的は、課題を見つけ、それを定義し、対処策を作り、システムのコンセプトを示すことである。しかし、多くの場合、経営者の話の中に課題や対処策、そしてシステムのコンセプトまでもが潜んでいる。少なくとも、ヒントはいっぱいある。ただ、経営者は自分からは語れないことが多い。気が付いていないか、あるいは大事な事だととらえていないからである。だから、引き出し役としてコンサルタントに意味がある。

 答えはコンサルタント側にあるのではなく、相手が持っている。「そっ啄同期(そったくどうき)」という言葉がある。「そっ」とは、鶏のひながふ化しようとして中から卵の殻を突くことを意味し、「啄」は親鳥が外から殻を突っつくことを意味する。この親鳥が殻を突くタイミングが早すぎると、ひなは未熟児となり生きてはいけず、遅すぎると殻を破れないまま力尽きて死んでしまう。同期がとれてないと、生まれることができないのである。

 コンサルティングは、まさに 啄同期が命である。相手がもやもやとしていて、自分では課題や対処策、ましてやコンセプトを述べることができない場合がある。そんな時に、親鳥が卵を突くように相手の中に潜んでいるものを表に出すのが、コンサルタントの役目なのである。どのタイミングで、どのように突っつけば、経営者からコンセプトが出てくるかは、鶏と異なり経験を積み上げて学ぶしかない。しかし、ひなを助けようとする親鳥のごとく誠心誠意対応していけば、 必ずそうした感覚が身に付くようになる。

 今回まででシステムコンサルタントの修練に必要な「心」「技」「体」を紹介した。しかし、コンサルティングは1人ではできない。組織で行う。育成にしても組織の中で行うのが、その実際である。連載の最後は「モデルコンサルティング組織」を紹介する。

黒岩 暎一
テクノロジストコンサルティング代表取締役社長
元・野村総合研究所常務システムコンサルティング本部長。約200社・団体のシステムコンサルティングを経験。2005年にテクノロジストコンサルティングを設立。CIOやITサービス業向けコンサルティング、システムコンサルタント育成サービスを提供。