本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なりますが、この記事で焦点を当てたプロジェクトマネジメントの本質は今でも変わりません。

パフォーマンスが高い(業務達成能力が高い)プロジェクトチームを作ることは,プロジェクトマネジャにとって最重要の仕事である。専門能力の高い最高のメンバーたちを集めただけで,良いチームになるわけではない。プロジェクトマネジャは,集めたメンバーの間で,オープンなコミュニケーションができる土壌を作るとともに,プロジェクトの進め方に関する具体的なビジョンを設定する必要がある。それにはリーダーシップが欠かせない。

伊藤 健太郎
アイシンク 代表取締役

 今回は,プロジェクトを実際に遂行していく「プロジェクトチーム」について考えてみることにする。プロジェクトを遂行していくのは,当然ながらロボットでも理論でもなく,生身の人間たちである。プロジェクトを遂行していく人間の集まりをプロジェクトチームと呼ぶ。プロジェクトが成功できるかどうかは,プロジェクトチームの活動ぶりにかかっている。

 プロジェクトチームは,「プロジェクトマネジャ」と呼ばれるプロジェクトに関する一人の実施責任者と,プロジェクトメンバーから構成される。限られた時間内でプロジェクトの目的を効率的に達成するには,パフォーマンスが高い(業務達成能力が高い)プロジェクトチームが当然必要になる。

 パフォーマンスが高いプロジェクトチームをどのようにして作ったらよいのだろうか。専門能力の高い,最高のメンバーたちでプロジェクトチームを構成し,プロジェクトを遂行すればプロジェクトは必ず成功するのであろうか。

 この問いに答える前に,まずプロジェクトチームの持つ特徴を理解する必要がある。プロジェクトチームはどのような特徴があるのか。そして,通常の組織と何が違うのか。

チームは臨時的でフラットな組織

 一般に企業における組織は,一つの仕事が終了したら解散するものではなく,半永久的に続く前提で作られている。それに対して,プロジェクトチームは,プロジェクトの目的を達成するために編成され,目的を達成すると解散する。つまり,プロジェクトチームの特徴の一つは,臨時的な組織だということである。

 したがって,プロジェクトの目的やプロジェクトの置かれた環境によって,自由にチームの編成ができる柔軟性を持っている。通常の組織とは異なり,極めてフラットな組織である。これが第二の特徴と言える。

 プロジェクトチームのメンバーは,何かを決める際に,プロジェクトマネジャの承認さえ取ればよい。担当者が係長に書類を提出してサインをもらい,同じ書類について課長,部長の承認を取得していくといった行為はほとんど必要ない。プロジェクトチームにおいては何かを決めるために要する時間は通常の会社組織より非常に少なくてすむ。

 これは,プロジェクトチームが問題点や環境の変化に対し,迅速な対応をとれることを意味している。このようにプロジェクトチームには通常の組織にはない優れた特徴がある。だが,その半面,難しい課題も存在する。

メンバーのまとまりが欠かせない

 第一に,メンバーをうまくまとめることが簡単ではない。プロジェクトチームはプロジェクトの遂行に必要なスキルを持った多様なメンバーから構成される。このため,いろいろな専門部署から来たメンバーで構成されることが多い。社外のメンバーを含んで構成されることも少なくない。

 プロジェクトの目的をきちんと達成するには,多種多様なメンバーたちを効果的な良いチームにまとめ上げる必要がある。自己主張ばかりが強いまとまりのないチームや,お互いに無関心で相乗効果を生まないチームのままでは,プロジェクトを成功させることはできない。コミュニケーションが存在しないチームは単なる人の集合体であり,チームとは呼べない。効果的な良いチームをできるだけ早く作り上げることも大切である。プロジェクトの終了近くになって,ようやくまとまりのある良いチームになっても遅い。

 第二に,プロジェクトを遂行していくプロジェクトマネジャには,高いリーダーシップや人的な影響力・魅力が要求される。人的な魅力とは,「あのプロジェクトマネジャと仕事をしたい」と思わせるようなものである。

 というのも,プロジェクトマネジャはプロジェクトメンバーに対して,通常の会社組織のような人事権を持っていない。通常の会社組織では,上司は部下に対して,昇進や給料査定の権限を持っている。プロジェクトマネジャは人事的な権限がない分,通常の管理者以上に,人的な影響力や効果的なリーダーシップが求められるわけだ。

 つまり,プロジェクトを成功させるには,メンバーのまとまりとプロジェクトマネジャのリーダーシップが欠かせない。単に専門性の高いメンバーを動員し,プロジェクトチームを構成すればそれでよいというわけではない。これが最初の問いの答えである。