プランナーに限らず,どんな職業でも,プロになった後の「継続」のほうが難しい。今回は,地方で生き延びているSOHO小規模事業者の一人として,これからWebプランナーとしての開業を目指す人たちへの助言を書いてみよう。

SOHO事業主に必要な資質と,覚悟

 本連載のタイトル通り,筆者は現役のSOHOだ。四国の山奥で開業して黒字転換をはかった後,現在地に越してきた。開業10年目になるが,いわゆる一般的な営業活動は一切していない。仕事の話が転がる宴席に出席することも稀だ。Webサイトでの発信と企画書だけで仕事を得ている。

 小規模自営では,技術習得や自己研鑽はもちろんだが,健康の維持,仕事への責任感,顧客への還元,エンドユーザーへの配慮,家族への思いやりを心がけてこそ,継続が可能になると思う。

 開業が,今の生活や仕事から逃げるための手段であってはならない。生計を一にする家族がいるなら,一人だけの問題でもない。本稿を読んでWeb業務に関心を持ち,生半可な気持ちで起業し,後で「こんなはずじゃなかった」と後悔する人を出さないためにも,開業と事業継続のポイントをあげてみる。

開業の目標は明確か?

 まず,表1を参考に,開業後の自分の理想の姿をイメージして,具体的な目標を書き出してみよう。迷いがあると仕事は逃げて行くので,受注したい業務,取引したい顧客名,達成目標はできるだけ具体化して絞り込むとよい。ヘルマン・ヘッセの言葉を借りれば「目標にさからうようなことは何ひとつ心の中にはいりこませない」(「シッダールタ」高橋健二訳,新潮文庫)ことがポイントだ。

表1●「目標設定表」できるだけ具体的に自分の目標を書いてみよう

ベンチャータイプか,サラリーマンタイプか?

 自分がベンチャータイプか,サラリーマンタイプかを見極めよう。「ベンチャー」という言葉は能力の証明でも何でもない,イメージに踊らされないことだ。コツコツと地道に歩く人も,社会には必要だ。うまくいかなければサラリーマンに戻ればいい,という考えが少しでもあるなら考え直したほうがよい。

知的好奇心を持ち続ける自信はあるか?

 新しい技術に意欲的な独立独歩タイプなら,何ら問題はない。セミナー情報を随時チェックし,能力開発のキッカケを作る気概のある人も大丈夫だ。しかし,これほどWeb上に資料があふれている現在,「何から始めればよいかわからない」「習っていないからわからない」というタイプなら,自営は難しいと思う。

365日,仕事に関わることはできるか?

 「SOHOの自営は時間的な融通が利く」わけではない。「融通の利くスパンが定時間勤務と違う」だけだ。1日単位では融通が利くが,1案件の工期単位では融通は利かない。納期に生活を合わせてスケジュールを組み,常時,業務連絡メールに対応する必要もある。Webプランナーは,365日,アイデアを考え続けることを苦痛に感じるようでは務まらない。

万が一のリスク管理はできているか?

 人間誰しも常に健康とは限らない。だからこそ,健康維持の努力をしたり,万が一病を得たとき,業務に支障をきたさない方法を考えておく必要がある。天災への備えも必要だ。「そのうち考えればいい」という悠長な姿勢では,責任を果たせない。

フットワークの軽さと,慎重さのバランスが逆転していないか?

 新技術への取り組みや営業面ではフットワークの軽さが必要だが,計画や作業には慎重さが必要だ。未知のテーマにしり込みしたり,逆に何にでも首を突っ込んだ挙句に放棄するタイプなら,事業継続は難しい。

挑戦と無謀を見極める自信はあるか?

 パートナー企業もおらず,SOHO団体にも参加したばかりの個人にはバックアップ体制がない。新しいテーマへの挑戦は重要だが,あきらかに身の丈以上の仕事を受注するのは「無謀」だ。もし,プランナーはアイデアを出すだけでいい,プログラマのようにバグに責任を感じなくていい,と思っているなら大間違いだ。一番上流工程なのだから,一番責任重大だ。

コミュニケーション能力の必要性を理解しているか?

 SOHOなら対人関係に悩むこともないだろう,というのは大きな誤解だ。オンラインで仕事を進めるからこそ,メールの行間,感情や体調を読む必要がある。顧客の希望を,メール1本で引き出すこともある。ひとくちにSOHOといっても,オペレート業務等と異なり,手順書や仕様書がない(それらを作る側の)Webプランナーには,逆に,状況判断能力とコミュニケーション能力が必要だ。

傾聴能力はあるか?

 先達や同業者の意見を謙虚に傾聴する姿勢,顧客の希望を傾聴する姿勢が必要だ。一言一句漏らさずに話を聞き,無理難題も,実現する方法を一度は考えてみる。その試行錯誤を,成長の糧にしよう。打ち合わせ時の,自分と相手の話した時間の比率を思いおこし,自分が常に話す側であったなら,傾聴能力を磨いてから開業しよう。

自他の区別は付いているか?

 顧客が決めるべきことと,プロジェクト・リーダーや他のメンバーが決めるべきこと,プランナーが決めてもよいことに線引きをできることも重要だ。Webプランナーに限らず,どんな仕事でも,自他境界を明確にし,決定権と責任感を明確にできなければ,人間関係でつまずくことになる。

公私のバランスを保てるか?

 個人のWebサイトやブログ,プライベートな交友関係が,仕事に結びつくことがある。一般の営業活動でも,商品の機能説明やセールストークは一部であって,商売に無関係な話をしている時間のほうが長いものだ。これはネット世界でも同じで,要件の伝達だけでは仕事にならない。プライベートな話をメールに織り込みながら,且つ,公私混同は避けるバランス感覚が必要だ。

冷静さを保ち続けられるか?

 メールであれ,電話であれ,対面打ち合わせであれ,感情を律さなければならない。Webプランニングは,必ず評価がついてまわる仕事だ。起業すると,手がけた仕事のすべての責任を一人で負うことになる。多少の批判にメゲてしまい,自暴自棄になって本来の目的を見失いがちなら,心に余裕を持てる年齢になるまで開業を延期できないだろうか。

「独創性」と「非常識」を混同していないか?

 プランナーには独創的な発想がもとめられるから,個性をムリヤリ押さえ込んでまで大多数の嗜好に合わせる必要はない。だが,仕事上の常識は必要だ。個性の発揮と,非常識を混同していないか,自らの言動を確認してみよう。

自らを知り,制御する能力を持っているか?

 自営では,サラリーマンと違い,納品後に,まとまった収入が入ることが多い。そこで舞い上がって散財したり,それを元手として「濡れ手に粟」を目論む人がいる。「多く稼いで多く消費する」形で事業を発展させられるのは,経営の才がある人だけだ。筆者は,普通に稼いで,少しだけ消費し,開発環境の整備には適切に使う,という生活を続けている。自分の適性と能力を知り,周りの意見に流されず,自制する姿勢が必要だ。

開業・運営資金と,設備のチェック

 これまで述べたことをクリアできていても,次にあげる資金や設備の面で不安があるなら,開業は延期あるいは再考したほうがよい。